公爵と思い出姫
再会
今夜の内に家を出よう。
セシリアの意志は日が暮れても変わることはなかった。
「お父様ったら酷いわ。いくら見合いを断ったからって、婚約を勝手に決めるなんて…」
ベッドの上に大きめのトランク乱暴に放り投げ、クローゼットの中からドレスを何着か物色していく。
そんなセシリアの姿を、執事のクロードはあきれた表情で眺めていた。
「旦那様はお嬢様の事を思ってお決めになられたのですよ。」
「普段は別邸のここにほったらかしのくせに、突然やって来て嫁に行けだなんて、馬鹿にしてるわ。」
数年前、長年勤めていた老年の執事の代わりにと年上とは言っても5つしか違わないクロードを連れてきたときも突然だった。
「だいたい、このままではお嬢様のお歳が・・・と。」
慌てて口を手でふさぐクロードをセシリアはキッと睨み付けた。
「私はクロードにも怒ってるんですからね。」
今年でセシリアの歳は23になる。
国で名声を得ているベルトフォード伯爵家に生まれ、幼少のころは体が弱かったことから養生のために田舎にある別邸で育ってきた。
物心ついたころには本邸で生活をする両親に弟が生まれ跡継ぎとして育てられていることから、セシリアは健康に問題が無くなった後でも別邸のほうで生活をすること
になった。
そのせいか名家の女性はほとんどが10代で嫁いでいく中、セシリアはこの歳になるまで忘れられたかのように縁談の話もなかったのだ。
家のために顔も見た事がない相手に嫁ぐのは珍しくない。
けれども初恋すら経験のないセシリアにとっては、抵抗があった。
「私は縁談が来たのが嫌なんじゃないのよ。お父様もクロードも私に黙って話を進めるのが嫌なのよ。」
「お嬢様がきっと嫌がるだろうからと。旦那様がお決めになったのです。」
クロードはしれっとした表情で話す。
あまりにも悪びれない態度に、セシリアは荷造りの手を休めてクロードに向き合った。
「ねぇ、クロード。私はこれから出ていくけどあなたはどうするの。」
「どうとは?」
「だって、私がいなくなれば世話をするは必要が無くなるから本邸に呼ばれるかもしれないでしょう。あなたの性格で厳格な本邸が合うとは思えないわ。」
下働きがほとんどいない別邸では、執事とは名前ばかりで、雑用の多くをこなさなければならない。
そんな中でクロード良く働いていると思ていた。
ただ一つ問題があった。
セシリアも初めは何てしっかりした好青年だろうと思っていたが、数日後に父が本邸へと帰ってからは認識を改めた。
慣れ親しむと態度が悪いのだ。
「お嬢様は私を誤解してらっしゃる。」
銀縁のメガネの奥で深い緑の瞳を意地悪く細めた。
「こんな風に接するのはお嬢様だけに決まってるでしょうが。」
セシリアの意志は日が暮れても変わることはなかった。
「お父様ったら酷いわ。いくら見合いを断ったからって、婚約を勝手に決めるなんて…」
ベッドの上に大きめのトランク乱暴に放り投げ、クローゼットの中からドレスを何着か物色していく。
そんなセシリアの姿を、執事のクロードはあきれた表情で眺めていた。
「旦那様はお嬢様の事を思ってお決めになられたのですよ。」
「普段は別邸のここにほったらかしのくせに、突然やって来て嫁に行けだなんて、馬鹿にしてるわ。」
数年前、長年勤めていた老年の執事の代わりにと年上とは言っても5つしか違わないクロードを連れてきたときも突然だった。
「だいたい、このままではお嬢様のお歳が・・・と。」
慌てて口を手でふさぐクロードをセシリアはキッと睨み付けた。
「私はクロードにも怒ってるんですからね。」
今年でセシリアの歳は23になる。
国で名声を得ているベルトフォード伯爵家に生まれ、幼少のころは体が弱かったことから養生のために田舎にある別邸で育ってきた。
物心ついたころには本邸で生活をする両親に弟が生まれ跡継ぎとして育てられていることから、セシリアは健康に問題が無くなった後でも別邸のほうで生活をすること
になった。
そのせいか名家の女性はほとんどが10代で嫁いでいく中、セシリアはこの歳になるまで忘れられたかのように縁談の話もなかったのだ。
家のために顔も見た事がない相手に嫁ぐのは珍しくない。
けれども初恋すら経験のないセシリアにとっては、抵抗があった。
「私は縁談が来たのが嫌なんじゃないのよ。お父様もクロードも私に黙って話を進めるのが嫌なのよ。」
「お嬢様がきっと嫌がるだろうからと。旦那様がお決めになったのです。」
クロードはしれっとした表情で話す。
あまりにも悪びれない態度に、セシリアは荷造りの手を休めてクロードに向き合った。
「ねぇ、クロード。私はこれから出ていくけどあなたはどうするの。」
「どうとは?」
「だって、私がいなくなれば世話をするは必要が無くなるから本邸に呼ばれるかもしれないでしょう。あなたの性格で厳格な本邸が合うとは思えないわ。」
下働きがほとんどいない別邸では、執事とは名前ばかりで、雑用の多くをこなさなければならない。
そんな中でクロード良く働いていると思ていた。
ただ一つ問題があった。
セシリアも初めは何てしっかりした好青年だろうと思っていたが、数日後に父が本邸へと帰ってからは認識を改めた。
慣れ親しむと態度が悪いのだ。
「お嬢様は私を誤解してらっしゃる。」
銀縁のメガネの奥で深い緑の瞳を意地悪く細めた。
「こんな風に接するのはお嬢様だけに決まってるでしょうが。」