俺様なアイツのしつけ方。
「明らか高級そうなマンション…ね」
琴羽は数時間前の担任の言葉を思い出して、目の前にそびえたつ高級マンションを見上げた。
もう1度メモ用紙を見つめる。
そこには走り書きの住所と、ただ一言【最上階】と書かれていた。
「さすが、理事長の息子…」
最上階に高校生が独り暮らしなど聞いたことがない。
とりあえず琴羽は、中に足を踏み入れた。
自動ドアをくぐると、たくさんボタンの並んだロックを解除するための機械に行き当たった。
これを解除しなければ、本人の家まで行けないどころか、更に控えているもう1枚の自動ドアさえも開けないらしい。
しかし担任は、そんなこと知らないらしくロックナンバーなど書いてくれてはなかった。
高級マンションだということを知っているなら、セキュリティのことまで頭が回らなかったのだろうか。
「ちょっと私、ロックナンバーなんて知らないわよっ」
適当に押して警報器なんかが鳴っても困るので、携帯電話を取り出す。
「蓮には申し訳ないけど…」
病人を起こして聞くのもどうかとは思ったが、仕方がないのでアドレス帳から蓮を探し出す。
…と。
「…はぁ…なにやってんの」
「?!」
ため息と共に、声が聞こえて琴羽は先ほど自分が入ってきた自動ドアに振り返る。
そこにはコートを着て、片手に紙袋をぶら下げた蓮が立っていた。
「ちょ、あんたなにやってんの!!」
「それこっちのセリフ」
そう言いながら琴羽まで歩み寄ってきた蓮は、そのまま慣れた動作でボタンを押してセキュリティを解除する。
「なるほどねぇ…」
顔を上げた蓮は、それを感心しながら見つめていた琴羽を見て苦笑すると、彼女の頭をくしゃっと撫でてから自動ドアに向かった。
「俺に用があったんでしょ。上がってけば」
「………っ」
撫でられた頭を押さえつけている琴羽は、渋々後に続いたのだった。