シンデレラは何ルート?《王子or魔法使い》
私は一瞬で彼から目を離せなくなった___
ここら辺ではあまり見かけることのない、翡翠色の大きな瞳。
「綺麗…。」
無意識に自分の口からそうこぼれたのは、今でも覚えている。
彼はその大きな瞳を見開いていて、驚いているのがよくわかった。
「あ、えっ、えっと。」
言葉に詰まっていると
「…君は、何をしているの?」
私と同い年くらいの容姿のわりに、とても大人びた声が頭上から聞こえた。
「それは…私は…毎日が辛くて。
だから…たまに、ここに来てるの。」
「…辛い?」
「…お母様とお父様が死んじゃって…新しいお母様がいるんだけれどそのお母様やお姉様に酷い扱いを受けてるの。でも家では辛くても我慢しなくちゃいけないから…だからここに来てるんだ。」
何故あの時、私は出会ったばかりの男の子に自分のことを話したのか、それは今でもわからない。
でもきっと幼かったから、という理由だけではないと思う。
すると男の子は意外にも
「そっか。」
と驚きもせずあっさり話を受け入れてくれた。
「…びっくりしないの?」
「何が?」
「え…だって出会ったばかりの人にこんなにペラペラ自分のこと話すなんて、おかしいでしょ?」
自分だったら驚く。困る。
軽蔑するかもしれない。
「まぁ、確かに驚いたけど。」
(やっぱり…)
私がショックを受けて、話したことを後悔していると
ふわっ
温かいものが私の頭に触れた。
「驚いたのは小さな君が泣きたいときに泣けなくて、辛いときに辛いって言えないことだよ。」
そう言って彼は私の頭を優しく撫でてくれた。
「君は、もっと、子供でいいんだよ。」
そう言われた瞬間、今まで何かにせき止められていたものが溢れ出した。
私は両親が死んで以来、初めて泣いた。
身体中の水分が全部無くなるんじゃないかというくらい、泣いた。
その間、彼は何も言わず隣にいてくれた。
「やっと泣きやんだね。」
少し安心したような、優しい笑顔。
「うん、ありがとう。」
私もつられて笑顔になった。
「良かった。これからはもう我慢なんてしないこと。わかった?」
「わかった。」
ふ、と彼は小さく微笑むと
「じゃあ、僕はもう行くよ。」
と、言った。
「え?もう行っちゃうの?」
「うん。行かなきゃいけないところがあるんだ。」
嫌だった。
もっと一緒にいたい、と思った。
「そ、っか…。」
私にはこの一言を言うのが精一杯。
でも彼は私の思っていることがわかったようで。
「いつかまた、会えるよ。絶対に。
君のことは忘れない。」
そう言ってくれた。
「…っ、うん!絶対に絶対に会う!
私が君を探してみせる!」
私はめいいっぱいの笑顔と、大きな声で叫んだ。
彼はちょっと驚いた様子で、でも少し嬉しそうに
「…約束。」
と、小さな声で言ってくれた。
そして別れ際に彼は
「泣き顔より笑顔のほうが僕は好きだよ。
だからずっと、笑っていてね。」
そう言い残して去っていった。