Dear you




手をぎゅっと繋いでまた2人で歩く。



俺とまた会ったら、君は何て言うのかな。きっと驚いて声にならないだろうね。


もうあれから5年が経ったよ。


君がお母さんになるなんて、あの頃は
想像もつかなかった。



———うん…、会いたいなぁ。


もう1度だけ、もう1度だけ。って…。
ずっと思っていたんだ。



…—————だけど。




公園が見えた瞬間に走り出した
女の子の右手をそっと離す。


『……お兄ちゃん?』



少し先にいる女の子に微笑みかけた。



「……ごめんね。俺はここまでだ」


ごめん、ごめんね。
一緒にいてあげるって言ったのに。



でも、俺はここまで。



ゆっくりと近付いて目線を合わせるように女の子の目の前に屈んだ。



「君に、お願いがあるんだ」


『おね…がい?』


「うん。手、出してくれる?」



あの夜が明けた朝。
ただ唯一、君が残したもの…覚えてる?



「これを…君のママに渡して欲しい」


そっと小さな両手に預けたもの、
それは…



『おてがみ…?』




一通の真っ白い手紙だった。



『これ、なにも書いてないよぉ?』


それには名前がなかった。
彼女の名前も、俺の名前も。


でも。


「いいんだ、それで」


それでもきっと、君は気付いてくれる。




『…………か、……いちかーー……っ』


聞こえた大好きな声を胸に刻む。


「ほら、ママが呼んでいるよ」







「————…いちかちゃん」



『………うん……』


「そんな悲しい顔しないで?俺は君の
笑った顔が好きだよ」



そっか、君はわかったんだね。





俺と会えるのは、
(———…これが最後だって)




ありがとう、本当に。


ほんの少しの時間だったけれど、
俺は君と出会えてすごく幸せだったよ。



『いちか、お兄ちゃんのこと







本当に大好きだよ』






「うん、俺も」



明日も、明後日も、ずっとずっと。
俺の愛した人たちが。





幸せでありますように…————。







Dear…愛した人へ。




< 12 / 16 >

この作品をシェア

pagetop