Dear you
彼女の愛した
「一華…っ、いちかーーー……!」
どうしよう…っ、どうしよう…!
ほんの少し離れただけなのに…
遠くに行っちゃダメってあんなに…
ううん、私が離れちゃったからだ…っ
私が……っ
「いちかーーー!いちかーーーー…っ」
『………ママーーー!!』
「っ、」
駆ける小さな足音のする方へ勢い良く
振り向く。
『ママっ』
「一華…っ」
一生懸命走って私の胸に飛び込んでくる
愛娘をぎゅっと抱きしめた。
『ママぁ…ママ、ごめんなさいぃぃ…』
「ママもごめんね…っ、一華を1人に
しちゃったから…」
『ごめんなさいぃぃぃ』
ポロポロと大粒の涙を流すその姿に
ほっと息を吐いた。
よかった…事故に遭わなくて。
何ともなくて、本当によかった…っ
抱きしめる力を弱めて一華の顔を
よく見る。ああ、こんなに眸を赤くして。
「一華どこに行ってたの?1人で遠くに
行っちゃダメよってママとお約束したの
忘れちゃった?」
なるべく優しく、一華が怖がらないように問いかけた。
『ネコをね…、追いかけてたら知らない
ところに行っちゃったの…っ。ママって
呼んでもママいなくてね……っ』
泣きながら説明してくれる一華。
知らない場所で1人になって、どれほど
不安だったのだろう。
そう考えただけで胸が痛くなる。
「そっかぁ…、1人で怖かったね」
『ううん…、怖くなった…!』
「え?」
さっきまであんなに泣いていたのに一瞬でぱあっと明るく笑う一華に小首を傾げた。
『あのね!一華の大好きなお兄ちゃんが
一華とずぅっと一緒にいてくれたの!』
———…大好きな、お兄ちゃん?
「警察の人?」
『ううん、ちがうよ!お兄ちゃんだよ!』
「???」
誰か親切な人が一華をここまで送って
くれたってことかしら。
「そのお兄ちゃん、今どこ?」
それが本当ならお礼を言わないと…!
そう思って一華に訪ねた。けど…。
『お兄ちゃん、ここまでって言ってた。
だからもういないよ?』
ここまで…?いない…?
もういない、と言われてしまえば
仕方がないのだけど。
辺りを見渡してもそれらしい人は
いなくて、肩を落とした。
『あのねぇ、ママ』
「なぁに?」
『お兄ちゃんがこれママに渡してって。
一華お兄ちゃんにお願いされたよ』
そう言って一華はずっと握っていた
あるものを私に見せた。それは。
「っ……」