Dear you
一通の真っ白い手紙。
それは、あの夜が明けた朝。
テーブルに置いてきたものだった。
「どう…して…」
それには名前がなくて。
だけど、これは確かにあの時の…っ
『ママ…?』
一華の不安そうな顔を見て、はっと
現実に戻る。
「…ご、ごめんね!ちょっとぼーっと
しちゃった。さ、帰ろう?」
手渡された手紙をそっと仕舞い込み、
一華と手を繋いで帰路についた。
「…………」
月が浮かび、夜も深くなった頃。
私は1人リビングにいた。
目の前には一通の真っ白い手紙。
「……あなた、なの?」
————…嘘。もうわかってる。
今日一華が会ったのは彼だ。
そう、わかってる。わかってるけど…っ
すごく怖いの…っ。
あなたからの手紙を見るのが。
初めは返されたのだと思った。
あの日、いなくなる私の代わりに残した
それを彼は見ないで返してきたのだと…。
でも、ちがった。
少しだけ、便箋の色が違ったから。
だからこれは、彼が私に書いたものだ。
そう気付いても、私は手紙を読むことが
できなかった。
だって、きっと。
この中には彼の言葉が詰まっている。
彼ではない人のもとへ行った私への
怒りの言葉ばかりだろう。
そう思うと怖くて怖くて手紙を
読むことが出来ないのだ。
そうやってずっと苦しい気持ちで
手紙を見つめていた時…。
『……ママぁ…』
「一華?どうしたの?」
『ママ、お兄ちゃんからのお手紙、
読まないのぉ?』
「っ…」
『お願いママ、お手紙読んであげて?』
眠い気持ちを我慢しながら、必死に気持ちを伝えようとする一華に胸がきゅっと悲鳴を上げた。
ああ、そうだ。
私の知っている彼はそんな人じゃない。
いつも優しくて、少し泣き虫なあなた。
そんなあなたからの…。
愛した彼からの、
(————…最後の手紙だから)
震える手を抑えて、私は手紙をゆっくり
と読み始めた。