Dear you





『う〜ん。どうしよっかな…、あ!!』


突然の大きな声に驚いて眸を見開く。


『泣き虫なお嬢さん。今からこの手を
よ〜く見ていて下さい』


差し出された右手はグーに握られていて
意味がわからず小首を傾げる。


『いくよ?3.2.1……はいっ!』


ぱっと開けられた手の中にはお花の指輪があって、私はすぐに笑顔になった。


「かぁ〜わい〜!」


『泣き虫なお嬢さんへプレゼント』


そう言ってその人は私の親指に
そのお花の指輪をはめてくれた。


「ありがとうお兄ちゃん!」


『ははっ、もうお兄ちゃんって歳でも
ないんだけどなぁ』


「???」


『…うん、泣き止んだね。よかった』


ふわっと笑う目の前のお兄ちゃんに
つられて私も笑っていた。


なんだか、このお兄ちゃんに会ってから
私の心はふんわりして、ほんの少しだけ
強くなった気がする。


「ねぇ、お兄ちゃん」


『なぁに?』


「私、泣き虫じゃないよっ」


『それはそれは、失礼しました』


私の頭を優しく撫でるあたたかい手。
その手はママの手に似てるって思った。


そして、それは声もだった。


もちろんお兄ちゃんの声とママの声は
全然ちがうけど、雰囲気や口調がママ
にそっくりなのだ。


「お兄ちゃんはママに似てるねぇ」


『ママに?』


「うんっ、お兄ちゃんのお声も手も
すっごくママに似てるの」


『そっ…かぁ』


一瞬、ほんの一瞬だけお兄ちゃんが
泣きそうな顔をした気がして私まで
悲しくなった。


「お兄ちゃん…?」


『ああ、ごめんね。何でもないよ』


何でもないなんて嘘だよ、お兄ちゃん。
だってすごく悲しそうだったよ?


「お腹が痛いの?なでなでしてあげる。
ママもね、よくなでなでしてくれるの」


ママの手は魔法の手だから、ママに
なでなでしてもらうとすぐ治るんだよ。


だから…。


「痛くない、痛くない。だーいじょうぶ」



そんな悲しい顔しないで?




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