Dear you
「じゃあお兄ちゃんは、幸せな人だね!」
『え………………?』
「ママがね、いつも言ってるよ!!!
“好きな人がいることは素敵なことで、
とっても幸せなことなのよ”って」
『っ…、』
「ママに内緒ねって言われてるけど、
お兄ちゃんには教えてあげる!あのね…」
【ママにはね、とっても大切で、とっても大好きな人がいたの。その人とはもう昔にお別れしちゃったけどね。でも…
一緒にいれて本当に幸せだった。悲しい
こともあったけど、嬉しいことの方が
ずっと多かったから】
「…だから、ママは恋はとても素敵な
ことだって思うの、って」
この話をする時、いつもママは笑う。
とてもとても幸せそうに。だから私も
笑顔になっちゃう。
私はきっと、お兄ちゃんもあの優しい
笑顔で聞いてくれてるんだって思った。
だけど。
「お兄ちゃん…?」
お兄ちゃんの眸からは涙が流れていた。
ポロポロと大粒の雫が地面に落ちる。
「お兄ちゃんどうしたの?また痛い?
なでなでしてあげるから泣かないでぇ」
お兄ちゃんが悲しいのは、
私も悲しいよ…。
下を向くお兄ちゃんの頭をよしよしって
いっぱい、いっぱい撫でてあげた。
元気になって欲しくて、
ずっと笑っていて欲しかったから。
「お兄ちゃんそんなにいっぱい泣いたら
“ほんと、泣き虫なんだから”ってママに
言われちゃうよ?」
【———…ほんと、泣き虫なんだから】
『…うん…、そうだね…っ』
『“また”……言われちゃうね』
困ったように微笑むお兄ちゃんの眸からはもう涙は流れていなかった。