Dear you

彼の愛した






———…彼女とのあの最後の夜から
5年が経とうとしていた。



今年1番の暑さを記録した真夏のこと。



暑い…、けど店に入るのもなぁ…。


そんなことをいつまでも思いながら、
結局は何もせずに俺は街行く人の波に
ただ身を任せていた。


すると。



『……ママぁ…』



聞き逃してしまいそうなほどの
小さな小さな声。


幻聴…?なんて思ったけど、すぐに
その考えは消える。


「こ、…ども?」


街路樹とベンチのほんの隙間に見える
小さな影。


ぺたりと地面に座り込んでいるその子は
三角座りをして丸まっていた。


『…ママぁ、どこぉ……』


ああ、やっぱりさっきの声はこの子だ。



俺はゆっくりとその小さな影に近付く。



「————…泣き虫な子はだーれだ」



『…ママ!!』



「っ…」



一瞬で息ができない。

心臓が早鐘に打ちつける。


女の子を見た瞬間、




————…時が止まった。





『ママ…じゃ…ないいぃぃぃ!!!!』



そこに聞こえた女の子の大きな泣き声に
はっと意識を戻した。


いっぱいの涙を溢す女の子の顔を見て、
ああ、そうか。って思った。



だって、大きな眸からぽろぽろと涙を
流すその顔も。


お花の指輪を渡した時のあの笑顔も。


俺を心配して眉を下げるその仕草も。




ぜんぶ、ぜんぶ。
彼女の面影を残しているのだから。


間違いようがなかった。



偶然か必然か。
それとも神様の気まぐれなのか。





今年1番の暑さを記録した真夏のこと。
俺は彼女の娘と出会った…———。





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