アイバナ
 ………数秒、生じた間。それが示すものが拒絶であったら、考えるだけで身が固くなる。

 この場にいるのは、私と彼だけ。話によると凡そ二年間私をストーキングしていた訳だから、彼の自宅であろうここが私の家から酷く離れているということはないだろう。

 それでも、一応私は現在、知らない地にいるのだ。今、彼に拒絶されてしまったら……私は、どうすればいいのだろう。

 もう私には、この人しかいない。他の誰も、私を求めてくれない。一度持たせた希望を、どうか捨てさせないで。


 恐怖に怯えた目を彼に向けることは出来なくて、この流れには似つかわしくない程に、思いきり俯く。

 縋れば応えてくれるならいい。しかし、それで駄目だった時、より深く傷つくのは自分だ。

 問いを取り消そうと、おずおずとながら口を開いた私。しかしその言葉を発するより前に、彼の声が返ってくる。


「セリト。漢字は、植物の芹に、人」


 植物の芹に、人――芹人。それが、彼の名。


「芹人……さん?」


 耳にした名を辿れば彼は、ハハッと苦笑交じりに軽く首を振る。瞠目した私に、こう続けた。


「芹人、で。呼び捨てでいいよ」

「そんな、流石に……」


 断ろうとして、慌てて言葉を切る。大抵、していいという表現は、遠回しな、しろという意味だ。それを利用しなければという義務感と共に、許可を与えるのだ。

 それを不都合に感じる必要は無い。彼が求めるなら、それに従順に。


「芹人…………?」


 揺れる視線を躊躇いながら彼に留めれば、安堵したかのように微笑んだ。

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