アイバナ
買い込んできた食料が一通り片付いた頃には、午後一時を回っていた。それなりに換気もされただろうと、冷たい風の流れ込む窓を閉める。
「……ねぇ」
「ん?」
施錠をしながら、そういえば、と思い出したことがあって。私のいるキッチンではない、隣の洋間で同じく窓を閉める彼に声を掛ける。
「家出る前、窓閉めてくれたんでしょ?……ありがと」
そう。胃酸の臭いの篭らないよう、内容物を吐き出した後、私は窓を開けた。しかし目が覚めて彼が戻って来た時には既に閉まっており、寧ろ少々淀みさえ感じる程。
胃酸に粘膜をやられたばかりの喉で、この少々季節外れの寒さに曝されれば、風邪を引くことは免れない。
それを理解しての気遣いであろう行動に、流石に礼は言うべきだろうと判断したのだけど。
「……変な子だね。僕は君を誘拐して、ここに軟禁してるのに」
一瞬腑に落ちないと言わんばかりの表情を浮かべてから、軽く噴き出す。
そう、世間一般から見れば彼はただの犯罪者。誘拐だ軟禁だという以上に、一度私を殺そうともした。
それでも私にとっては、それよりずっと大きな存在価値が、彼にあるのだ。口にするには憚られる、けれどとてもとても大切な。
「関係無いよ。あのまま寝てたら風邪引くところだったし」
……そう。口にするには、憚られるから。
「……ねぇ」
「ん?」
施錠をしながら、そういえば、と思い出したことがあって。私のいるキッチンではない、隣の洋間で同じく窓を閉める彼に声を掛ける。
「家出る前、窓閉めてくれたんでしょ?……ありがと」
そう。胃酸の臭いの篭らないよう、内容物を吐き出した後、私は窓を開けた。しかし目が覚めて彼が戻って来た時には既に閉まっており、寧ろ少々淀みさえ感じる程。
胃酸に粘膜をやられたばかりの喉で、この少々季節外れの寒さに曝されれば、風邪を引くことは免れない。
それを理解しての気遣いであろう行動に、流石に礼は言うべきだろうと判断したのだけど。
「……変な子だね。僕は君を誘拐して、ここに軟禁してるのに」
一瞬腑に落ちないと言わんばかりの表情を浮かべてから、軽く噴き出す。
そう、世間一般から見れば彼はただの犯罪者。誘拐だ軟禁だという以上に、一度私を殺そうともした。
それでも私にとっては、それよりずっと大きな存在価値が、彼にあるのだ。口にするには憚られる、けれどとてもとても大切な。
「関係無いよ。あのまま寝てたら風邪引くところだったし」
……そう。口にするには、憚られるから。