TRIGGER!
「持って行くのは着替えくらいでいいかと思いますが・・・どうします、下着は全部持って行きますか?」


 風間の言葉に、ミニスカートを履き終えた彩香はどしどしと歩いてクローゼットに向かう。


「いいからテメェは車のエンジンでも温めておけよ」


 言いながら、風間の手から段ボールを取り上げる彩香。


「車のアイドリングをしている間に、あなたが二度寝するといけませんから。私も忙しいので、この仕事を早目に終わらせたいんですよ」


 こっちだって、色々と準備があるのだ。
 と、言いたいところなのだが。
 実際引っ越すと言っても本当に荷物は着替えくらいだし、もし足りなければ、買えばいい。
 この風間という男は、あの峯口の第一秘書なだけあって、食えない男だ。
 さっき投げたクッションは、後ろを向いていた風間には見えている筈がないのだが、振り返りもせずに、完璧に避けられている。
 ついでに言うと、2ヶ月前に何処かの高級クラブで峯口にボコボコにされたのも、彩香にとっては経験のない事だった。
 こっちにケンカを吹っかけてきた相手は、何人束になってかかってこようとも、かなりの高確率で再起不能か病院送りにして来たのに。
 どうもこの街の連中・・・いや、峯口という男の周りは、今まで彩香が出会って来た連中とはいささか質が違うらしい。
 自分を連行した老いぼれの刑事もしかり。
 彩香は、ポリポリと後ろ頭を掻いて。


「すぐ行くからテメェは外で待っとけ」


 下着も段ボールに詰め込みながら、彩香は言った。
 こうなったら、早目に引っ越しを終わらせて、新しい部屋に着いてから寝なおす方が得策だ。
 ムカつく風間の顔も見なくて済む。


「ありがとうございます」


 風間がお礼を言ったが、何に対してのお礼なのか、彩香にはさっぱり分からなかった。
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