TRIGGER!
 見回すと、ボックス席で接客しているのは目の前のピンクと同じ種類としか思えない人種のスタッフ達。
 ここは“そういう店”だ。
 やっぱり、住人がまともじゃないならここにある店もまともじゃない。
 ここまで来たら一杯だけでも飲んで他を当たろう。
 そう思ってカウンターに座ろうとした時。


「彩香じゃねぇか!」


 そんな声が聞こえ、顔を上げると。
 ひと部屋あけたお隣さん、ジョージがそこに座っていた。
 何故か両隣にオカマちゃん二人をはべらかせている。


「やっぱ帰る。いくら?」
「まぁまぁ、お座りなさいよ」


 カウンターの中からそう声をかけて来たのは、濃い紫色の着物に身を包んだ、この店のママらしい人物。
 痩せ型で、夜会巻きにした髪型がよく似合ってはいるが、コイツも男だ。
 いくら綺麗な顔立ちをして、化粧がバッチリでも。
 肩幅と腰を見れば分かる。


「この子ね? さっきジョージが言ってた面白い新入りさんって」


 細身のタバコの煙を華麗に吐きながら、その人物は言った。
 ジョージはウイスキーを飲みながら笑う。


「あぁそうだ。噂をすれば何とやらだな。座れよ、せっかくだから一緒に飲もうぜ!」
「・・・・・・」


 彩香はそんなジョージから席を二つ開けて、カウンターに座った。


「初めまして、ここのオーナーの桜子よ。何飲む?」
「ウイスキーロック。一番安いヤツ」


 カウンターに肘を付きながら、彩香はタバコを取り出した。
 桜子は微笑みを絶やさずに、グラスに氷を入れてウイスキーを注ぐ。
 彩香の前にそれを差し出すと、桜子は笑う。


「峯口彩香ちゃん、よね。あなた有名よ? この前“パシフィック”の黒服を病院送りにしたんでしょ?」
「・・・・・・」


 彩香は黙ってグラスを持ち上げる。


「それだけじゃないわ、その仲間五人も仲良く一緒に入院させたんですってねー。あなた一人でやったの?」
「・・・・・・」
「この街に来た時も、陽介ちゃんの店をグチャグチャにしたんですってね?」
「・・・・・・」
「すごいわぁ、ね、ね、前から格闘技か何か、やってたの?」
「うるせぇな。静かに飲ませろ」


 うんざりした様子で、彩香は桜子を睨む。
 だが桜子は笑って。
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