TRIGGER!
「何を朝からギャーギャー騒いでるのかと思ったら・・・」


 いつの間にか廊下にジョージが立っている。
 いや朝じゃねぇよ、と、彩香がツッコミを入れる。


「何だよ、デートの誘いにでも来たのかぁ?」
「そんなところです。行きますよ彩香さん」


 廊下に立つジョージを避けて、風間は彩香の部屋の玄関を出て行こうとした。
 だがジョージはまた声を掛ける。


「もしかして初仕事かぁ?」
「今回は彩香さんに依頼です。子供のお使い程度ですので」


 ふうん、と、ジョージはタバコを取り出した。


「な、彩香。俺も一緒に行ってやるよ」


 くわえタバコでそう言うジョージを、風間は迷惑そうに一瞥した。
 どうやら本当に、この風間という男は、ジョージの事が嫌いらしい。
 いつも感情を表さない風間がこういう態度を取るのを見るのは、彩香にとって面白いものだった。
 彩香はニヤリと笑って。


「ジョージも一緒に行くならいいよ。待ってろ、速攻で着替えて来るから」


 そう言ってクローゼットに引っ込むと、彩香は肩口の広い白のTシャツと、デニムのショートパンツに着替える。


「おっ、いいねぇ、動きやすそうで」


 ジョージも毎晩のように下の『AGORA』で顔を合わせているが、間違っても仲良くなった覚えはない。
 それにしても、まだ仕事の内容を聞いていないのに、ジョージはまるでそれを知っているかのようだ。


「ま、先輩としては、可愛い後輩の初仕事を見届けてやらなきゃな」
「何だよそれ」


 怪訝そうに首を傾げる彩香に、ジョージは笑う。


「ここに来たからにゃ、俺もお前も同業者だっつーことだ」
「意味わかんねぇよ」
「口で説明するよりも、体感した方がいいと思いますよ。行きましょう」


 ジョージが同行するのをすっかり諦めたのか、風間はそう言うとエレベーターの方へ歩いて行った。
 ジョージも鼻歌を歌いながら歩き出し、仕方なく、彩香もそれに付いて行く。
 三人でエレベーターに乗り込むと、風間は三階ではなく、屋上のボタンを押した。


「何で屋上?」


 彩香が聞くが、二人は答えない。
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