TRIGGER!
「なぁ。車で出掛けるんなら最初からエレベーターで降りれば良かっただろ。何だってわざわざ屋上なんかに行ったんだよ」


 この二人は、彩香にまだ何も説明をしてはいない。
 でも、違和感は屋上に上がってからだ。
 口では説明出来ないが、何処か嫌な雰囲気。


「屋上のドアから外に出る必要があったからです」


 車のエンジンを掛けながら、風間は答えた。
 そして、車は走り出す。
 後部座席で足を組み、彩香は通り過ぎる街並みに視線を送っていた。
 確かさっき、H市に向かうと言っていたが・・・その通り、車はH市のある東へ進んで行く。
 この時間から三時間のドライブをするとしたら、帰って来るのは、真夜中過ぎだ。
 H市で待っている女を連れて、戻って来る。
 ただそれだけなら、何もわざわざ彩香を連れて行く事はない。
 それでも、隣に座ったジョージは窓に肘を付きながらさっきから下手くそな鼻歌を歌っているし、風間はハンドルを握り、前を見たまま何も話さない。
 どうしてこんな奴らと、真夜中のドライブをしなくちゃならないのか。
 組んだ足を小刻みに動かしながら、彩香はずっとタバコを吸い続け。
 気が付くと、いつの間にかジョージは眠ってしまっている。
 気持ち良さそうに、イビキをかいて。


「あのさぁ」


 彩香は言った。


「女連れて来るって、夜逃げか何か?」


 車はとっくに高速道路に入っていて、街を抜けた今では暗くて景色すら見えない。
 それでも街灯だけは目まぐるしく後ろに流れて行き。
 エンジンの静かな音とジョージのイビキだけしか聞こえない。
 気の利いたドライブミュージックでもかければいいのに、と、彩香は思う。


「正解ではありません。ですが、近いものはありますね」


 運転しながら、風間は言った。


「もうここまで来たら帰るなんて言わねぇからさ。ぶっちゃければ? いつまでももったいつけてねぇでさ」


 車に乗ってから何本タバコを吸ったか分からないが、彩香はまたタバコを取り出して。


「さっきも言いましたけど、口では説明しにくいんです。とにかく現地に到着すれば、追々分かるかと」


 それきり、風間はまた黙る。
 彩香はシートに深く沈み、これみよがしに大きなため息をついた。
< 23 / 92 >

この作品をシェア

pagetop