TRIGGER!
 また何発か発砲音が聞こえ。


「ほら、行くぞー彩香」


 この場にそぐわないような、間延びしたジョージの声が聞こえて、彩香が恐る恐る玄関の方を覗くと。
 さっきの黒スーツの男達は、全員地面に倒れていた。
 行きがけに、倒れた男達の一人から銃を拝借すると、ジョージは彩香にそれを持たせた。


「プレゼントだ」
「いらねぇよ!」
「一応貰っておけよ。脅しくらいにはなるだろ」


 それも一理あるが・・・本物は重い。
 彩香はそのまま旅館の中に入るジョージを追った。
 旅館の中もいたって普通で、酒を飲み気分が良さそうな観光客は、楽しそうに話をしながら廊下を歩いている。


「・・・どうなってるんだよ・・・」


 方やこっちは、銃を持ちながら身を低くして二階を目指しているというのに。
 小さい子供を連れた親子まで、彩香たちには目もくれない。


「ドアだよ」


 辺りを警戒しながら、ジョージは言った。


「今、俺達はドアのこっち側にいる。だから見えねぇんだ」
「じゃあさっきのは?」
「あいつらは、俺達と同じようにドアを通ってこっち側に来た連中さ。見ただろ、揃いも揃って悪人面」
「あんたに言われたくないらしいよ?」


 呆れながら、彩香は言った。
 だがまだ理解できない。
 ドアを通ったのは、ここに来る前、マンションの屋上のドアだけだ。


「・・・・・・」


 そこで、彩香は理解する。
 繁華街でも感じた違和感。
 それは、誰も彩香の事を見なかった事。
 人間というのは他人とすれ違う時、多少なりとも相手に気が行くものだ。
 その気配が全くないと言うことは、完璧に、こっちの事を認識していないということだ。
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