TRIGGER!
「何なんだよ。まるで違う世界に来たみてえだな」


 もう、何が何だか分からないが。
 ジョージは階段を登りきり、二階をぐるりと見回しながらニヤリと笑う。


「ご名答」


 へっ? と、ジョージの方へ振り返ると、ジョージはまた発砲した。
 思わず、彩香は首をすくめる。


「彩香!」


 辺り一面銃弾の嵐の中、ジョージは彩香を呼んだ。


「ドアだ! ドアの向こうに女がいるはずだ、そいつ連れて隼人の所へ行け!」
「隼人?」
「飼い犬だよ!」


 あぁ、と、彩香は納得する。
 風間って、隼人という名前なのか。
 初めて知った。


「じゃなくてぇ!!」


 彩香は頭を掻き毟る。
 ドアって何だよ、と怒鳴り返そうとした時、ひと組の中年の夫婦が楽しそうに二階の廊下を歩いて来た。
 彩香は一瞬息を呑むが・・・この銃撃戦のさなか、夫婦は仲睦まじく、笑いながら廊下を歩いていく。


「絶対・・・当たってるよな・・・あれ」
「呆けてねぇで、早く行けよこのチビ!」
「はぁぁ!?」


 彩香は思わず、二階に躍り出る。
 だが廊下の向こう側には、温泉旅館にはそぐわないような黒いスーツの男達がこっちに銃を向けていた。
 和気あいあいと行き交う観光客と、怪しげな連中。
 同じ場所に居るはずなのに、まるで合成された動画のように、噛み合っていない。


「ほぉら。動き止めると、狙われるぜ?」
「・・・っ!?」


 ジョージの言う通り、連中のうちの数人が彩香に狙いを定めている。


「チッ!」


 舌打ちしながらその場を飛び退くと、たった今まで立っていた床に、ビシッと風穴が開いた。
 冗談で撃ち合っているんじゃない、本物だという事を、彩香は改めて思い知る。
 ジョージは応戦するので手一杯だし、こんな所にいつまでも長居するのはごめんだ。
 “ドア”は、二階・・・つまりこの階の、胡蝶の間。
 確か風間は、そう言っていた。
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