TRIGGER!
 彩香は身を低くして、辺りを見回す。
 二階は大小さまざまな宴会場になっているらしく、真っ直ぐ伸びた廊下の両脇に障子戸が並んでいた。
 その間にある木製のプレートに、部屋の名前が刻まれていて。
 桔梗の間、菖蒲の間、百合の間・・・。
 彩香は移動しながら、プレートを確認していく。


「あった、胡蝶の間!」


 だが、ドアなど見当たる筈もなく。
 キョロキョロしながら、彩香は取り敢えず障子戸を開けた。
 すると、部屋の中でタバコを吸っていた女が、ゆっくりとこっちを向く。


「あんたが、迎えの人?」


 真っ赤なマニキュアを塗った手でタバコを灰皿に押し付けながら、女は言った。
 濃紺の超ミニのスカートに、薄い紫のブラウス。
 大きく開けた胸元から、太めの金のネックレスが揺れていた。


「やたらと遅いじゃない。待ちくたびれたわ」


 そんな女を無視して、彩香は後ろ手に障子戸を閉め、部屋の中を注意深く見渡す。


「テメェ、1人か?」
「そうよ。ずーっと待ってたのよ、1人で」


 当然というように、女は言った。
 相当待ちくたびれたのか、欠伸を噛み殺している。


「早く行きましょ。もう眠いし」


 そう言って、女は立ち上がる。
 廊下は銃撃戦の真っ最中だ。
 この呑気な女を連れてそこを通るのは、ごめん被りたい。


「なぁお前、ロビーから上がる階段以外に下に降りる場所、知ってるか?」
「・・・ここから左の突き当たりに、非常階段があるけど・・・何よ、なんかヤバいの?」


 どうやらこの女も少しは、分かっているらしい。


「やだ、先生はちょっと身を隠すだけでいいって言ってたのに・・・危険はないって・・・」


 不安そうに、小さく呟く女。


「だろうな。事態が飲み込めてたら、そんなチャラチャラした格好でここに来る訳ねぇもんな」


 嫌味を込めて、彩香は言う。
 そして、一応銃を構え、障子戸に手を掛けたその時。


「やだ、何でそんなの持ってるのよ!?」
「うるせえな! こっちも良く分からねぇんだよ。ゴチャゴチャ言ってねぇで行くぞ!」


 ったく何なんだと毒づきながら、彩香は障子戸を開ける。
 途端に響いてくる発砲音。


「嘘でしょ・・・もうやだぁ・・・どうしてこんな事になってるのよぉ・・・!」
「知るか!!」


 泣きべそをかく女に、彩香はイライラしながら怒鳴り返す。
 ただでさえ彩香にも全く理解出来ていないのに、その上コイツにめそめそ泣かれた日には・・・苛立ちも倍増するというものだ。
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