TRIGGER!
「さっきからずっとこんなだよ! 聞こえなかったのか!?」


 女を引き連れてジョージがいる方とは反対に廊下を進みながら、彩香は言う。
 だが女はキョトンとして。


「嘘よぉ、ずうっと静かだったわよ」


 おかげで眠くて仕方なかったけど、と、女は言って。
 そうか、と、彩香は納得する。
 ドアというのは便宜上の名称なのだ。
 この場所の“ドア”は、さっきの胡蝶の間の障子戸だった。
 これが合成の世界なら・・・。
 一番の世界と、二番の世界を繋ぐのが“ドア”だ。
 全てではないが、何となく分かってきた。
 信じられないし、信じたくもなかったが。
 だが今はとにかく、この女を連れて風間の所へ行きたい。
 早く、戻りたい。
 彩香の“現実の”世界へ。
 ようやく非常階段にたどり着き、降りようとした時。
 ここにも二人、居やがった。
 黒いスーツはこちらに気が付いたらしく、懐に手を入れる。
 だが、彩香の動きの方が早かった。
 一気に階段を飛び降りた彩香は、そのまま一人をなぎ倒す。
 もう一人が慌てている間に、起き上がりざま回し蹴りを繰り出して。
 ほんの一瞬で、二人は地面に倒れた。
 彩香にとっては、朝飯前だ。


「あらぁ・・・凄いじゃない。てか何なの、この連中?」
「うるせぇバカ女。付いて来いよ」
「やだ、あたしヒール、置いて来ちゃった!」


 彩香のこめかみが、ピクリと動く。
 まさかこの女、取りに行くとか言うんじゃ・・・。


「ちょっと待ってて、取ってくる・・・」
「そのままでいいから行くぞ」
「やぁよ、あれはね、そこらじゃ手に入らない品物なの。先生がわざわざアメリカから取り寄せて下さって・・・」


 まだ何かを言いそうだったのだが、女は言葉を切った。
 彩香が銃を女に向けたからだ。


「靴と命と、どっちが大事だ?」


 彩香に凄まれて、女は泣きそうになりながら非常階段を降りて行った。
 外に出ると、風間の車が見えた。
 非常階段からの距離は近く、彩香は内心ラッキー、と手を叩く。
 風間も彩香達の姿を確認したらしく、エンジンをかけ、ヘッドライトを灯した。
 辺りが明るくなり、またいくつかの人影が目に入る。
 だがこの距離と相手の位置関係なら、何とかやり過ごせる。


「車だ、走れ!」


 彩香は女のケツを蹴り上げ、女はビックリして走り出す。
 それと同時に、風間はパァン、とクラクションを鳴らした。
 彩香は女の後ろを走りながら、邪魔な黒スーツをひと捻りで倒し。
 女が車の後部座席のドアを開けると、頭から滑り込み。
 ようやく彩香が車に乗り込んだ時、ドン!! と、まるで車の屋根に大きな岩が落ちたかのような衝撃音がする。
 風間のこめかみが、ピクリと動く。


「お待ったっせー!!」


 素っ頓狂な声を上げ、ジョージが助手席に乗り込んだ。
 どうやらジョージは、二階からこの車めがけて飛び降りたらしい。
 よくまぁ、車の屋根に穴が開かなかったものだ。
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