TRIGGER!
 とは言え。
 街の真ん中を流れる川の対岸に繁華街を見据えるこのオフィスビルの最上階。
 ここからの眺めは、昼間より断然、夜の方がいい。
 太陽の光の中で見る繁華街など、ゴミ貯めのようだ。
 夜の闇があるからこそ、繁華街はきらびやかに輝く。
 峯口自身も、繁華街には高級クラブからスナックまで、全部合わせて18店舗を経営している。
 アイツと出会ったのも、そんな繁華街の一角だった――。



☆  ☆  ☆



 たまには気晴らしをと、自身の経営する高級クラブ“AYA”のVIPルームで、久しぶりに両腕に女をぶら下げて酒を楽しんでいた時の事。
 クラブのホステスの動向と、黒服の態度がいつもと違った。
 店の最奥にあるこの部屋は、ラウンジの喧騒は聞こえて来ない。
 ここで働く人間達もまたプロフェッショナルであり、外界と完全に断ち切られた空間では、客である峯口を心から楽しませようと、笑顔を崩さなかったが。


「便所だ」


 そう言って席を立った峯口。
 VIPルーム専用のトイレは使わずに、ラウンジの方へ向かう。
 ラウンジに近付くに連れて、喧騒がいつもの和気あいあいとしたものではない事は、直ぐに分かった。


「何があった?」


 オーナー代理として任せてある秋田という男に、峯口は聞いた。
 秋田は、VIPルームにいるはずの峯口の姿を見ると、あからさまに狼狽えて。


「もっ・・・申し訳ございません、社長!」
「誰もおめぇに詫びさせたい訳じゃねぇんだよ。何があったと聞いてる」


 それでも秋田は、もう少しで土下座でも始めそうな勢いで頭を下げつつ、申し訳ございませんを連発するだけで。
 峯口は、ため息をついてそんな秋田をやり過ごすと、ラウンジに顔を出す。
 先ず目に入ったのは、まるでここだけ特大の竜巻でも来たのかというくらいにメチャメチャになった店内だった。
 へっ?
 と、更に見回すと、店の外にはいくつものパトランプが灯っていた。
 そして、入り口付近では。


「離せっつってんだろ!!」


 警官と黒服が入り交じり、黒い人間団子が出来ていた。
 どうやら叫んでいるのは、その中心にいる人物。
 それも、声音からして若い女だ。
 ホステスとしては絶対に雇わないが。
 峯口は両手をポケットに突っ込んだまま、入り口の人間団子に近付いた。
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