TRIGGER!
 ジョージが助手席のドアを閉めると同時に、車は急発進した。
 道へ出るのに、ドリフト張りのハンドルさばきで、彩香は窓に頭をぶつけてしまう。


「きゃぁぁっ!?」


 隣では、女が両手で顔を覆っていた。


「いっ・・・今、ぶつかったわよ!? 歩いてた人と!!」


 女が驚くのも無理はない。
 風間が轢いたのは、こちら側が見えない連中だ。
 それが分かった彩香はもう、驚かなかった。


「お? ちぃとは理解したのかな、彩香は」


 助手席から後ろを振り向いて、ジョージは笑う。
 車は猛スピードで温泉街を走り抜け。
 あっという間に、高速のインターチェンジの中に滑り込んだ。
 連中はどうやら、追っては来ないらしい。
 それにしても、風間はこっちへ来る道中は安全運転だったのに・・・温泉街の狭い道を走り抜けるテクニックは、プロのレーサー並みだ。
 高速に乗った今も、メーターを確認するのが怖いくらい、かなりのスピードを出している。
 もうここまで来るといちいちツッコミを入れる気にもならないが、追い越しで車線を変えるたびに遠心力で身体が持っていかれそうになり、その度に隣のバカ女がキャーキャー騒ぐもんだから、うるさくてかなわない。
 だがこのスピードで走っていたら、例え追手がつこうとも追い付けないのではないかと、彩香は思う。


「初仕事にしては上出来だったぜ、彩香ちゃん」


 暫く走ると、ジョージはタバコを取り出して一息ついた様子で言った。


「ちゃんと体感しただろ?」
「あぁ、嫌って程な」


 言いながら彩香はポケットを探るが、タバコが何処にもない。
 どうやら落としたらしい。
 すると、もうキャーキャー言うのも疲れたらしい女が、あの脱走劇の間中しつこく持っていたブランドもののバッグの中からタバコを取り出し、彩香に差し出す。
 女の右手首に、いかにも豪華そうなピンクゴールドの時計が揺れた。


「――サンキュ」


 遠慮なく彩香はタバコを受け取って火を点ける。
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