TRIGGER!
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「お疲れー。昨日は楽しかったんだって?」
起きたのは昼過ぎで、そこからすぐ動く気にもならずダラダラと午後を過ごし・・・ようやく重い腰を上げて峯口建設の社長室に出向いたのは、夕方になってからだった。
「あぁ、おかげで笑いが止まらなかったよ」
一晩寝たら、もう昨日の事なんてどうでも良かったのだが。
これからもまた同じような仕事をさせられるのか確認がしたかったし、もしそうなれば“あっちの世界”を理解しないと、冗談じゃなく命が危ない。
平気でドンパチ出来る世界なのだ。
「んで、何から聞きたい?」
社長室の大きなデスクに頬杖をつき、峯口陽介は言った。
大企業と言っても過言ではないこの会社の社長が姿勢正しく椅子に座っているのを、彩香は見たことがない。
「あたしが昨日分かったのは“ドア”から“あっちの世界”へ移動出来る事だ。あっちの世界じゃ他人からあたしらの姿は見えねぇのも分かった」
ドアを隔てたあっちの世界は、どういう訳か幻が現実になったような世界だ。
人々はいつもと変わりなく行動しているが、それはドアを通って向こうへ抜けた人間とは全く違う世界。
「ま、体感したんだからそれくらいは分かるよなぁ」
タバコをくわえながら、峯口は笑う。
「うるせぇよ。説明もなしにいきなりあんな場所に連れて行かれたんだ、驚くに決まってるだろうが!」
「あれま。説明しなかったのか、風間は?」
「体感したら分かるとか抜かしやがって」
「まぁ、俺の優秀な秘書だからなぁ。説明の手間を省いたんだろうな」
関心してんじゃねぇ、と、彩香は怒鳴る。
「おかげでそこまで理解したんだ、同じ事だろうが」
確かに、峯口の言う通りではあるが。
そう言う問題ではない。
「で?」
来客用のソファに足を組むと、彩香は峯口を見た。
「これからもあっちの世界で仕事しなきゃならねぇのか、あたしは?」
「ご名答。さすが彩香、もしかしてまんざらバカじゃねぇのか?」
「やかましい!」
彩香はイライラとタバコに火を点けた。
やっぱり、峯口はそのつもりだったようだ。
だがふと、疑問が湧く。
峯口と風間は、昨日のあれを仕事だと言った。
それならば、クライアントが存在する。
ボランティア好きではないこのオヤジの事だ、好意であの女を逃がすのを手伝った訳ではないだろう。
そうだ。
あっちの世界は、逃げる必要のある人間を逃がすのに持って来いだ。
峯口はクライアントから依頼を受け、利害関係が一致すれば動く。
それを遂行するのはジョージであり、風間であり、彩香だ。