TRIGGER!
☆  ☆  ☆




 峯口建設を後にしてから繁華街に戻り、そこら辺の店をフラフラと三件ハシゴして。
 最後に行き着くのはやっぱり、オカマちゃんがひしめき合う店『BAR AGORA』だ。
 今日もやたらとテンションの高い客とホステス達。


「あらやだぁ~彩香ちゃん、今日の出勤遅かったわねぇ~」


 そう言って小走りに近寄って来たのは、最初にこの店に来た時に半ば無理矢理連れ込んだピンクの男。
 ここのホステス(?)達はそれぞれイメージカラーの服を着ていて、それが名前になっている。
 ピンクがいちご、緑がキウイ、紫がグレープというように。
 コツを覚えれば、なかなか分かり易い名前ではあるが。
 そんなピンク・・・もとい、いちごちゃんに抱き着かれる直前で、彩香はひょいと交わす。


「キモイんだよ近付くなボケ」
「やぁん、照れちゃってぇ、かーわーいーい~!」


 そんな毎度の挨拶を交わし、彩香はカウンターに座るジョージを見た。
 よっ、とジョージは笑顔で軽く片手を上げる。
 彩香は黙って、ジョージの隣に座った。


「どうした? 納得いくまで説明受けたんじゃねぇのか、あの親分によ」


 何処と無く元気がない彩香にウイスキーを注ぎながら、ジョージはその横顔を覗きこんだ。


「あぁ、問題なしだよ。例えそれがあまりにもぶっ飛んだ話だとしてもな」


 ウイスキーを一口飲んで、彩香はタバコをくわえる。
 ただなぁ、と、付け加えて。


「さっきの店でちょいと耳にしたんだけどさ。何か今朝、女が川に浮いてたって?」
「へぇ~そうなのか?」


 ちらりと彩香を見て、ジョージは自分のグラスにもウイスキーを注いだ。


「しらばっくれるんじゃねぇよ。分かってんだろ?」
「昨日の俺達の仕事は、アリスちゃんをここまで連れて来る事だ。その後の事なんて知らねえし、俺には何の関係もねぇ」


 全くその通りだと思うのだが、何か腑に落ちない。
 こんな後味の悪い噂を聞くのなら、峯口の所から寄り道せずに、真っ直ぐこっちに来れば良かったと後悔する。
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