TRIGGER!
 あのバカ女、記憶を消すとか言う薬を飲んでいたから、あっちの世界での事は覚えてはいないだろうが。
 気が付いたらクラブ“パシフィック”にいて、そしてそこで人生を終えた。
 バカ女が絡んでいたのは、大物政治家だ。
 政治家と何処ぞの親分が絡んでいるなんてのは何処にでもある話だが。
 何かの交渉が決裂して、その相手にバカ女が差し出されたのだ。
 どういう事か考えたら。
 あのバカ女は売られたのだ。
 最後まで信じていた政治家に、交渉継続の代償として。
 最初から思っていたが・・・それ程までに、あの女はバカだった。
 最後に笑って『ありがとう』と右手を差し出した時のアホヅラが目に浮かぶ。
 自業自得だな、と、彩香はウイスキーを一気に煽った。


「まぁまぁ、そうヤケになりなさんな。ほんの些細な日常の中の、取るに足らない話でしょ」


 桜子が、カウンターの中で苦笑している。


「誰がヤケになってるんだよ」


 冗談じゃねぇあんなバカ女に、と、彩香はそっぽを向いて。
 その時、カウンターの隅に見慣れない子供が座っているのに気が付いた。
 どう見ても中学生くらいで、半ズボンと白い膝丈のソックスを履き、坊ちゃん刈りの。


「何だよあれ、誰かの隠し子か?」


 時間はもう真夜中近い筈だ。
 そんな時間にこんな場所で、あんなガキが一人でいるなんて。


「やぁねぇ彩香ちゃん。あたし達に子供が居る訳ないでしょ」


 憮然として、桜子は言い返す。
 そりゃそうだと頷いて。


「じゃあ何であんなガキが一人でいるんだよ」
「いいんだよ彩香、あれはあれで」


 苦笑しながら、ジョージが言う。
 あれはあれで、も、いいんだよも、どこらへんを指して言ってるのか分からない。
 すると子供はすっと立ち上がり、彩香達の後ろを通ってトイレの方に歩いて行った。
 その時彩香は、子供の首元に少しだけ目立つホクロがあるのに気付く。


「ま、どうでもいいけどな」


 ボックス席では、客とオカマちゃんによる腕相撲が始まっていた。
 その周りでヤンヤヤンヤと歓声が上がる。
 それに気付いたジョージが、腕まくりをして。


「おい、何を賭けてるんだ? 俺も参加させろ!」


 そう言いながら、喜々として腕相撲に交じりに行く。
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