TRIGGER!
 この店で“勝負”をする時には、必ず何かが戦利品として賭けられる。
 時には高級ウイスキー、時にはタバコ一本。
 このシステムも、彩香は中々気に入っている。
 客もみなそれが分かっている、ノリのいい連中ばかりだ。
 盛り上がるボックス席を見つめていると。
 ふと、香水の匂いが鼻をついた。
 振り向くとそこには、一人の女がカウンターにもたれ掛かるようにして立っている。
 こんな奴、この店にいただろうか?
 入って来た時には気が付かなかったが。
 女はいかにも水商売風の出で立ちで、ボディラインがくっきりと分かるミニのワンピースを着ていた。
 大きく開いた胸元からは、これ見よがしとしか思えないくらい胸の谷間が見えていて、首元にはプラチナのネックレス・・・と、ホクロ。
 女は腕相撲を見るではなく、微笑みながらただじっと彩香の方を見ていた。
 彩香は眉をひそめ、そんな女に背中を向ける。


「この勝負、ジョージの勝ち!」


 レフェリー役の緑色、キウイがジョージの腕を持ち上げて叫ぶ。


「さぁ、挑戦者はいない?」


 じゃないとニューボトル、ジョージのモノになっちゃうわよ~と、キウイが煽っている。
 だが、腕相撲ならこの店では、ジョージの右に出る者はいない。
 ジョージの戦利品なら、彩香にも利がある。
 黙ってても、彩香の口に入るからだ。
 彩香はカウンターに向き直り、ジョージがボトルを持って帰って来るのを待つ。
 いつの間にか、香水のきいた派手な女は居なくなっていた。
 その時、わぁっと歓声が上がる。


「挑戦者出現よぉ!」


 嘘だろ、と、振り返ると。
 プロレスラー並みの体型をした大男が、ジョージと向き合っていた。
 コイツも、この店にいただろうか?
 人の顔を覚えるのは得意な方だ。
 特にこういう店に入った時は、何人くらい同じ空間にいるのか、どんな奴らなのかを最初に頭に入れる癖が、彩香にはあった。
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