TRIGGER!
 それなのに、見覚えがないなんて。
 今日はまだそんなに酔ってない筈なのに。


「おめぇかよ」


 何故か、苦虫を噛み潰したような顔をしているジョージ。
 この店で腕相撲チャンピオンのジョージが、プロレスラー相手に負けるのは、ちょっとした見物だ。
 ニューボトルは惜しいが。


「ま、いいか。たまにゃ本気出すかねぇ」


 ニヤリと笑い、ジョージはプロレスラーと腕を組む。


「いくわよぉ~!」


 二人の手を取り、キウイは号令を掛けた。


「レディー・・・ゴー!!」


 同時に、二人は力を入れた。
 ジョージの太い腕の筋肉が盛り上がる。
 負けじと、プロレスラーも力を入れた。
 ほぼ互角の、この勝負。
 組み合った二人の手が、プルプルと震えていた。


「ぐ・・・ぬぬぬ・・・!」


 ジョージは珍しく本気で、歯を食いしばりながらプロレスラーを睨み付けている。
 だが、プロレスラーはまだ余裕の表情だ。
 これは、ジョージの腕相撲連勝記録が止まるかも知れない。
 早く、悔しがるジョージの顔が見たい。


「頑張れよ!」


 彩香は思わず、プロレスラーを応援していた。
 プロレスラーはちらりとこっちを見ると、一気にジョージの腕をテーブルに押し付けた。


「いてっ!!」
「はぁい、勝負あり!」


 キウイがプロレスラーの腕を高く掲げた。
 ワーワーワー、と、周りから拍手が沸き起こる。


「やるなぁお前!」


 ニューボトルを持ちカウンターに近付いて来たプロレスラーに、感心したように彩香は言った。
 プロレスラーはにっこりと笑うと、ボトルを彩香に差し出す。


「え? くれんの?」


 キョトンとして、彩香はプロレスラーを見上げ。
 その時に気が付いた。
 コイツ“にも”、首元にホクロがある。
 彩香は訝しげな視線を、プロレスラーに送る。
 プロレスラーは彩香にニューボトルを渡すと、そのまま店を出て行った。


「ふふふっ、良かったわねぇ彩香ちゃん」
「何も言わなかったけど・・・貰っていいのかな?」


 何と、そのボトルは彩香が前々から狙っていた特上のウイスキーだった。
 桜子はウインクする。


「くれる物は貰っておきなさいよ。ご挨拶のつもりなんでしょ、きっと」
「ご挨拶?」
「あぁ、アイツはここの四階に住んでる奴だよ」


 いてててて、と腕をさすりながら、ジョージがカウンターに戻って来た。


「あんなデカい奴だったのかよ。初めて見た」
「あら、さっきからずっと、彩香ちゃんにコンタクト取ろうとしてたじゃない」


 グラスを拭きながら、桜子はそう言って笑う。


「あのガキ、そして美人なネェちゃん、それとプロレスラー。同一人物だよ。気付かなかったか?」


 ジョージはそう言って、自分の首元を指さした。
 確かに、三人全員、首元に同じようなホクロがあったが。
 子供と、女と、プロレスラー。
 何処をどう見れば、同一人物なのか。
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