TRIGGER!
 その後ろ姿を見送り、彩香は軽く溜め息をつく。


「・・・ま、いっか・・・ってテメェ!!」


 ジョージがこっそりと、彩香のウイスキーをグラスに注いでいた。


「何すんだこのタコ!」
「じゃあ返す。口移しで」


 唇を突き出してこっちに迫るジョージの足を踏んづけて、彩香はくぅぅっ、と拳を握り締める。
 そんな二人を見て、桜子は大笑いしていて。
 彩香はジョージからボトルを奪い返す。
 全く・・・油断も隙もあったもんじゃない。
 それにしても、と。
 彩香はようやく落ち着いて、グラスを傾ける。
 本当にこの街は、退屈しない。
 面白い奴らばかりだ。
 そして。
 こういうのを、待っていたのだ。


「楽しそうだな」


 彩香からくすねたウイスキーを堪能しながらジョージは言う。
 楽しいよ。
 楽しくて仕方ない。
 そう答える代わりに、彩香のグラスの氷が、カランと心地よい音を立てた。


「アイツはな、“ドア”を探す仕事をしている」
「アイツ?」
「四階のヤツだよ」


 あぁ、と、彩香は頷く。
 名前も知らねぇのか、と思いながら。


「“ドア”探すって・・・どうやって?」


 こっちの世界でドアなど、数え切れない位ある。
 それに、形状がドアだとは限らないのだ。
 旅館『和泉屋』では、胡蝶の間の障子戸が“ドア”だった。
 それを考えると、こっちとあっちの世界を繋ぐ場所は、窓だったりもするのかも知れない。
 そんな中からどうやって、“ドア”を見分けられるのだろう。


「それがなぁ、アイツには分かるんだとよ。喋らねぇから、どうやって見付けてるのかもさっぱり分からねぇけどな」


 ジョージの話によると、四階のヤツが見付けた“ドア”の場所は、峯口建設の社長室のパソコンで管理されているのだそうだ。


「どのくらいあるんだろうね、一体」


 彩香はタバコを取り出しながら言った。
 さぁな、と、ジョージは肩をすくめて。


「そんなに多くないらしいぜ? この街にゃここだけらしいし。取り敢えずは大都市から潰して行ってるみてぇだからな、ドアの場所を全部把握するなんて、不可能に近いと思うんだけどな」


 ま、俺には関係ないから勝手にやればいいさ、と、ジョージは残ったウイスキーを煽る。
 せっかく貰った特上のウイスキー、もっと味わって飲めよ、と、彩香は文句を言ったが。
 ジョージは笑って立ち上がる。


「あらジョージ、もう帰るの?」


 桜子が言った。


「あぁ、明日は仕事なんだよ。ちゃんと報酬が貰える仕事だ」


 もしかして昨日タダでこき使われたのを、根に持っているのだろうか。
 まぁ勝手に付いて来たのはジョージなんだし、それも仕方ない。
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