TRIGGER!
 女はまだ、意識を失ってすらいなかった。
 鼻血と、口の端から血を流してはいるが、それでも真っ直ぐに峯口から視線を外さない。
 峯口はそれを正面から受け止めて。


「まぁ、詳しい事はわしの事務所でなぁ。おーい、そろそろこのお嬢ちゃん、安全な場所に連れて行ってやれよ。ピチピチのおハダに傷が増えねぇうちになぁ」


 相変わらず間延びした口調で、高田は言った。
 女から手を離し立ち上がると、警察署を事務所と呼ぶな、と峯口は軽口を叩く。
 パトカーに連行される女を見送っていると、高田が二本指を立てた手をこっちに差し出した。
 峯口はタバコの箱の尻を指先で叩くと、高田に差し出す。


「まぁ、お前さんも若い女にはアマアマだっちゅうことだなぁ」


 峯口のタバコを一本取ると、百円ライターで火を点けながら、高田は言った。
 そして、イタズラっぽい笑みをこっちに向けて。


「顔だけは狙わなかったもんなぁ」
「やかましい、クソジジイ」


 自分もタバコに火を点けて、峯口は毒を吐く。
 ふうっと煙を吐きながら、峯口は呟いた。


「アイツ、身寄りがなかったらこっちに連絡してくれ」
「ほう。なんじゃお前さん、いつの間にロリコンになった?」
「俺は女にゃ誰にでも優しいんだよ。落とし前の付け方も、アイツにゃ教えてやらなきゃならねぇしな」


 煙を吐きながらそう言う峯口を、高田は声を上げて笑い飛ばした。
 どうしてくれようかと歯ぎしりをする峯口の肩を、高田はバシバシと叩いて。


「あー分かった分かった、わしゃもう行くよ。ウチの若いもんは根性ねぇからなぁ、またお姉ちゃんが暴れてると始末に負えんからなぁ」


 店を出て行く間際、高田はまだ笑いをこらえながら、誰にも聞こえないような小さな声で、峯口に言った。


「まぁ、あのお嬢ちゃんの目・・・陽介坊ちゃんの小さい頃に似てなくもねぇな」
「うるせえよ、ジジイは大人しく窓際に座ってろ。こんなとこまでイチイチ出しゃばって来るんじゃねぇよ、いつまでも」


 年の功と言ってしまえば、それまでだが。
 多分この老いぼれのじいさんはこの時既に峯口の心の中を見透かしていたんだろうし、そしてそれは。


(間違っちゃ、いねぇよな)


 これが、峯口とアイツの出会いだった。
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