TRIGGER!
「何だありゃ?」


 キョトンとして黒スーツ達を見送る彩香。
 雛子の姿を見た途端に、全員逃げ出すなどと。
 攻撃の矛先が一瞬でなくなり、彩香は拍子抜けする。
 だが、くるりと回れ右すると、VIPルームの方へ歩き出そうとした。


「そこから先はいけません、彩香さん」


 秋田が震えながら、両手を広げて彩香の行く手を阻んだ。
 不完全燃焼ぎみの彩香は、ギロリと秋田を睨む。


「あのデブに用事があるんだよ。そこどけよ」
「お断りします」


 キッパリと言い切る秋田に、彩香のこめかみがピクピクと痙攣した。
 ビクリと身を縮める秋田。
 そこへ、峯口が割って入った。


「はいはい止め。彩香、ハウスだハウス」
「何だとぉ!?」


 あたしゃ犬か、と今にも噛み付きそうになっている彩香を片手で制して、峯口は秋田に向き直る。


「しゃ・・・社長! 申し訳ございません!!」


 途端に、あと一歩で土下座しそうになるくらい、秋田は頭を下げた。
 峯口は苦笑する。


「誰もおめぇを咎めてなんざいねぇよ。それよりも俺は、この猛獣に楯突こうとした秋田くんを賞賛するね」
「・・・は?」


 秋田は恐る恐る、頭を上げた。


「ま、店は多少壊れたが・・・後で俺の方に請求書回してくれ。個人的にな」
「い、いやでも・・・」
「いいんだよ。この街じゃこんなの当たり前だ。たまたま俺がここに居合わせた、それだけだ」


 彩香の襟首を掴んだまま、峯口は笑って携帯を取り出し、車を呼んだ。


「ほぉら彩香、帰るぞー。車、もう外で待ってるってよ」


 必死で抵抗する彩香。
 だが、峯口の手からは逃れられなかった。


「あのなぁ。お前がケンカ売ってるのは、柴崎組の組長さんだ。分かってんのかあ?」
「知るか! あのデブもう一発ぶん殴らねぇと、あたしの気が済まねぇんだよ!!」
「もう一発?」


 峯口は店の入り口まで彩香を引きずりながら、聞き返した。
 彩香はニヤリと笑い。


「一発は殴ったんだけどな。なんかスッキリしねぇんだよ。ぽちゃぽちゃしやがって、ダメージ入ったのか分からねぇ」


 峯口は頭を抱える。
< 50 / 92 >

この作品をシェア

pagetop