TRIGGER!
「そうかぁ・・・もうやっちゃったのかぁ・・・んじゃ、彩香が俺のトコにいるっての、今日バレたんだなぁ・・・あー全く持って」


 一人でブツブツ呟いていたかと思うと、峯口は抱えていた頭を上げた。


「楽しすぎるぜ」


 その顔は、本当に楽しそうだった。
 彩香はそんな峯口を見て、首を傾げる。


「雛子ちゃあん、どうする、送って行こうか?」
「もちろん、そのつもりで待っているのだが」


 入り口で待っている雛子にそう声をかけながら、峯口は外に出て行く。
 彩香もその後に続こうとしてふと振り向くと、秋田が頭を下げていた。


「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」


 完璧な営業スマイルだが、その額には。


(二度と来るんじゃねぇぞこの疫病神)


 ・・・と、書かれていた。



☆  ☆  ☆



 クラブ『AYA』を後にした、その道中。
 彩香が助手席に座り、その後ろには峯口、運転席の後ろには雛子が座っていた。
 彩香はシートを倒し気味にして、イライラとタバコをふかしている。
 車は彩香のマンションを何故か通り過ぎ、繁華街から15分くらい走って海岸線に出た。
 テブには逃げられるし、黒スーツも雛子を見たら勝手に逃げるし、何かムシャクシャするから『AGORA』に行って飲み直そうと思っていたのに。


「だぁれがドライブするっつったよ。しかも真っ暗で、景色とか見えやしねぇ」


 さっきから彩香一人でブーブー文句を言っているが、運転手を含め、誰も口を開かない。
 もう暫く走ると、車は海岸線の途中で停車した。
 何があるでもない、ただ目の前には砂浜と海しかない。
 だがここには繁華街のネオンは一切なく、代わりに月明かりだけが海面を照らしていた。
 彩香は車から降りる。
 波の音と、海岸線に沿って植えられた街路樹の葉っぱが擦れる音。
 何だか、久しぶりに聞いた気がする。
 久しぶり・・・いや、こんなに穏やかな音は、まともに聞いた事がなかった。
 彩香の周りには、喧騒と雑音しかない。


「どうだ? たまにゃいいだろ」


 彩香の隣に立ち、峯口は言った。
 潮風に乗って、タバコの煙が流れていく。


「・・・あぁ」


 後ろで縛った彩香の長い髪の毛も、峯口のタバコの煙と同じようになびいていた。
 思わず本音で頷いてしまい、峯口がこっちを見て笑っているのに気付いて、彩香は慌ててそっぽを向く。
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