TRIGGER!
「んじゃ、仕事の話をしようか、彩香」


 いきなりそう言い出した峯口に、彩香はへっ? と、首を傾げる。
 峯口は呆れた口調で。


「あのなぁ。最初はお前が俺の仕事場に乗り込んで来たんだろ? もう五日だって」


 あぁ、そうだった。
 ジョージが仕事に出向いてから五日、それが気になって彩香は今日の夕方、峯口の所へ出向いたのだった。
 それがなし崩しに飲みに付き合わされ、あの変なマント女に会わされ、しまいにはあの柴崎とか言うデブに鉢合わせになり。
 本当の、最初の目的を、忘れかけていた。


「仕事、って?」
「お前が望んでた、子供のお使いじゃない仕事だ。明日、あっちに行って来い」
「・・・・・・」
「なんだよそのリアクションは?」


 タバコをくわえたまま、峯口は眉をひそめる。
 もっと派手に喜んでくれると思ったのだが。


「まぁ、仕事は引き受けるよ。その前に一つ教えろ。あの柴崎とか言うデブの取り巻きの黒スーツ、あっちで見たのと同じか?」


 アリスという女を迎えに行ったあの日。
 旅館『和泉屋』でこっちを襲撃してきた連中は全員、黒スーツを着ていた。


「あぁそうだ」


 峯口はあっさりと頷く。
 となると。
 柴崎も、あっちの世界の存在を知っている事になる。


「お前も気付いてると思うが」


 ふぅっと煙を吐き出しながら、峯口は言った。


「柴崎はクラブ『パシフィック』の出資者だ。ま、言うなればあのデブも、俺と同じ立場な訳だ」


 彩香も、薄々は気付いていた。
 繁華街まで連れて来たアリスは、クラブ『パシフィック』で殺された。
 あのバカ女は知らなかったのだ。
 パシフィックと柴崎が繋がっているという事を。
 アリスは、政治家と親分のある交渉が決裂した、と言っていた。
 政治家はアリスを交渉継続の為に犠牲にしたという事は、そこまでして柴崎と何か交渉したかったという事。
 そして、柴崎はあっちの世界の存在を知っている・・・。
 彩香の頭の中で、点と点が繋がっていく。
 闇の中で生きる者にとって、あっちの世界はどれだけの利用価値があるのか。
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