TRIGGER!
「あのデブ、あっちの世界で大儲けする気満々なんだよ。で、可哀想なアリスちゃんの犠牲の上で、柴崎と政治家の交渉は成立した」
「ま、そこまでは想像出来たよ。あたしが分からねぇのは」


 右手を腰に当てて立ったまま、彩香は言った。


「何なんだ、その交渉ってのは。デブはあっちで、何をしようとしてる?」
「ホント、人間って浅はかっつーか、どうしようもないバカっつーか」


 峯口はそう言って、肩をすくめた。


「政治家が欲しいのは金だ。この世の中、金になるものっつったら、何だ?」


 この場合、真っ当な金ではないのだろうという事は容易く想像出来る。


「麻薬、武器・・・とか?」
「ご名答。だが今回の場合は、武器だな」


 安心安全に見えるこの国も、闇の中で生きる者にとっては、銃など当たり前のように手に入る。
 あっちの世界は武器を流通させるのに、最も安全な場所。
 彩香は気が重くなる。
 もし本当にあっちの世界を最初に発見したのが闇の者ではなく、真っ当な人間だったら。
 そこまで考えて、彩香は軽く首を振った。
 この世の中、真っ当な人間なんているのだろうか?
 それに、どういうカラクリなのか、生身の人間は長居出来ない世界に行ったら・・・あっという間に、訳も分からずにこの世からおさらばしていただろう。
 あっちの世界を見つけたのが闇の者だったからこそ、生身の人間が一週間で異常をきたすというのも、多少の犠牲の上で知り得た事なんだろうし。
 そして彩香の周りの人間というのは、その犠牲を済ました顔で乗り越えられる人種なのだ。
 峯口も、アリスがこうなる可能性があると分かっていて、政治家からの依頼を受けた。


「――・・・で?」


 彩香は峯口の方を向いた。


「あたしは何をやればいい? それから」


 少しだけ、声を潜めて。


「あんたはあたしに、何をやらせたいんだ?」


 そんな彩香に峯口は一瞬だけ視線を送り、そしてすぐに、海の方を見つめて。


「あっちに行ったら、先ずは風間と合流してジョージを連れて帰る事」
「・・・りょーかい」
「あ、それとな」


 峯口は、前を見つめたままだ。 
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