TRIGGER!





 目が覚めたのは、普段なら有り得ない時間帯だった。
 遮光カーテンの隙間から差し込む光があったから。
 彩香は半目で壁に掛けてある時計を見た。
 午前10時を、ちょっと回ったところだ。
 昨夜は『AGORA』にも寄らずに部屋で晩酌がてら酒を飲み、比較的早く寝たとは言え…こんな時間に目が覚めるなんて、彩香には考えられない事だ。
 では何故、こんな有り得ない時間帯に目が覚めたかというと。


「朝からうるせぇぇっ!!」


 ベッドの横に置いてある電話の子機をむんずと掴み、彩香は怒鳴る。


『おはよー彩香。モーニングコールだよ』


 電話の相手は、峯口だった。
 ベッドにうつ伏せになったまま、彩香は左手に持った子機を睨み付ける。
 朝一番で聞く声では、ない。
 それでも峯口は明るい口調で言った。


『まだ寝てるのは分かってたんだけどな、こうでもしないとお前、夕方まで起きないだろ?』
「・・・・・・」
『しっかしお前、本当に寝起き悪いな。30分もコールし続けたぜ?』


 呆れたように言う峯口。
 そうだ、仕事だと言ってたんだ。
 ようやく回転し出した彩香の脳ミソが、昨日の話を思い出す。
 彩香は眠い目を擦りながら、ベッドの上で起き上がる。


「今起きた」
『結構。昨日の話、覚えてるか?』


 あのマント女が言うには、ジョージはここから西へ二キロの場所にいると言っていた。
 調べなくても分かる。
 そこは、駅だ。


「取り敢えず駅に行きゃいいんだろ」


 子機を肩と顎で挟み、彩香は着替え始める。
 ジーンズと、黒いタンクトップ。
 朝から陽射しは暑そうだ。


『あぁ、駅だ。悪いけど、急いでくれるか?』
「何でだよ?」
『さっき風間から定時連絡があった。駅だと伝えたが・・・彩香と一緒に行くように、俺が言ったんだ』


 風間は六時間ごとにこのマンションに戻り、峯口の元へ定時連絡をしてくるのだそうだ。


「なら待ってないで先に行っていいよ。当たるも八卦、当たらぬも八卦だろ?」
『だから当たるんだよ。何の為に俺が高い情報料使ったと思ってるんだ』
「そんなエセ情報に頼ってたら、あっという間に会社が潰れるな」
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