TRIGGER!
 ケケケと笑う彩香。


『会社は大丈夫だ。俺が切れ者だからな』


 そんな事よりも、と、峯口は続けて。


『今朝雛子ちゃんから連絡があったんだよ。そしてひとつ、お得意様にサービスで教えてくれたんだ』
「何だよ?」
『めっちゃ急いだ方がいいらしい。じゃないと手遅れになるかも、ってな』
「・・・チッ」


 彩香は子機を睨み付けて、舌打ちをした。
 あのインチキ占い師、何がサービスだ。
 ボッタクリもいいとこだ。
 だがそんな話を聞くと、本当に気分が悪い。
 もし当たってたら、今夜の酒も不味くなるだろうし。


「隼人は屋上で待ってるんだな?」
『あぁそうだ。頼りにしてるぜ、彩香』


 そのまま通話を終わらせて、彩香は足早に部屋を出た。



☆  ☆  ☆



 エレベーターで屋上に上がると、風間がドアの前で腕組みをして立っていた。
 あからさまに不機嫌そうな顔をして。


「お待ちしてました。35分も」
「・・・何だよその嫌味な言い方は」


 これでも早く来たんだよ、と、彩香は文句を言い。
 だがそんな事は全然聞いてないらしく、風間はドアを開けた。
 彩香は無意識に唾を飲み込む。
 ここから先は、彩香の現実世界とは違う。
 法の無い世界。


「これを」


 風間は彩香に、ホルダーに入った銃を渡した。
 彩香はそれを受け取る。


「使った事ねぇんだよ。あんたらと違って、これでも真っ当な一般市民なんだ」
「ここじゃ、そんな奴が真っ先に死にます。社長は何か言ってましたか?」
「急げ、だとよ」
「行きましょう」


 二人は屋上から非常階段を降りて、マンションを出る。
 そして道に停めてあった風間の車に乗り込んで、駅に向かった。
 信号も渋滞も関係ないのは便利だが・・・道を走っている他の車を通り抜けるのは、何度体験しても嫌な気分だ。


「もしジョージが駅に居なかったらどうすんだよ?」


 彩香はまだ、雛子のお告げを信じていない。
 猛スピードで街を突っ切りながら、風間は静かに答えた。


「当たります。根拠もあります」
「何だよ?」
「今まで一度も、外れた事がないからです」


 そんな事は根拠にはならない。
 現実味を帯びたものでなければ、彩香は信じない。
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