TRIGGER!
 ジョージがもたれ掛かっている自動販売機まで、たったの20メートルほどだ。
 だがこの調子じゃ、そこに行くまでに確実に、体中に涼しげな風穴が開くだろう。
 ジョージが身動き一つしない今、いつまでもここに隠れている訳にも行かない。
 銃弾は、この向かい側のホームから飛んで来る。


「隼人」
「・・・何ですか」


 名前で呼ぶなとツッコミを入れても無駄だと思ったのか、風間は応戦しながら、ため息混じりに返事をする。


「生きてる奴は、こっちじゃまやかしだ。だが物質はそうじゃないって言ったよな?」
「そうです」
「じゃあ、電車がここに止まったらどうなる?」
「相手は向かい側のホームから撃っているので、銃弾がここまで届く可能性はかなり低くなりますね」
「OK。それだ」


 彩香は、背負ったホルダーから銃を抜く。


「何するんですか?」
「電車が停車してる間に、ジョージのとこまで行って連れてくる」


 風間は少し、眉根を寄せる。


「あなたがジョージを抱えて戻って来るのは無理です。電車が停車しているのは、せいぜい一分くらいしかない」
「って言うけどさぁ」


 これどうやって撃つんだ、と、彩香は聞いて。
 セーフティロックを風間が外すと、ニヤリと笑う。


「どっちかっていうと、隼人が援護してくれた方がいいと思う。あたし、ゲーセンでゾンビしか撃った事ないんだよ」
「・・・・・・」


 風間は少し、考えて。


「分かりました。出来る限りの援護はします」
「あぁ。一発どついてさっさと起こすからさ、あの大木」


 その時、このホームに電車が入って来るという駅のアナウンスが流れる。


「彩香さん」


 銃を持ち上げて、風間は言った。


「何だよ?」
「もし手こずって電車が行ってしまうような事があったら、相手をゾンビだと思って応戦して下さい」


 あぁ、と、彩香は頷く。


「結構高得点出せるんだよ、あたし」


 そこで初めて、風間は彩香を見て笑う。
 へぇ・・・と、彩香は思う。
 いつも無表情で硬いこの男、笑うと意外に可愛い。


「何ですか?」


 ニヤついている彩香を、風間は訝しげに見つめて。


「何でもねぇよ」


 そう言った時、電車がホームに滑り込んで来た。
 停車まで、後少し。
 風間は銃口を向かい側のホームに向け、彩香は短距離走さながらスタートダッシュの体制に入り。
 電車が停車する。


「行くよっ!」


 彩香は走り出す。
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