TRIGGER!
 マンションに辿り着き、彩香はジョージを支えて車を降りる。
 話を聞いていると、どうやらチエちゃんと言うのは、このマンションの六階に住んでいる医者らしい。


“ちょっと変わった医者ですが”


 と、風間は言っていたが。
 彩香には面識がない。
 マンションの中に入ると一旦屋上にいき、三人は“ドア”を抜けて自分達の現実世界に戻る。
 その頃にはジョージの意識も朦朧としてきた。
 何も言わず、彩香は風間と一緒にジョージを支えて歩く。
 エレベーターは、六階に止まった。
 彩香は、マンションに越して来てから初めて足を踏み入れる六階の光景に、少し驚いた。
 この階には、部屋がない。
 普通なら三部屋あるはずなのに、エレベーターを降りた途端目に入ったのは。
 三部屋分の広さの空間と、数々の医療器具。
 知識のない彩香にも分かるくらい、最新鋭のものだ。
 何に使うものなのかまでは分からないが、その医療器具が乱雑に置いてある。
 普通の病院みたいに部屋で仕切られているのではなく。
 その器具一つ一つからケーブルが伸び、それぞれ専用のモニターみたいなものが付いている。


「水島先生!」


 風間は大声を出した。
 そうでもしないと、様々な機械の音に阻まれて、声が通らない。
 風間はあちこちを見て回る。
 支えているジョージはフラフラで、今にも倒れそうだ。


「ジョージが撃たれました、先生ー!」


 風間はそう叫びながら、六階を歩いて回る。


「なぁ・・・俺、逃げてもいいか?」



 辛そうに肩で息をしながらも、ジョージは言った。


「何言ってんだ、ここ医者なんだろ? 手っ取り早く治療してもらえよ。じゃねぇとヤバいんじゃねぇのか?」


 彩香は呆れてそう言い返し。


「水島先生!」
「あー・・・やかましいわねぇ・・・」


 意外に近くでそんな声が聞こえ、彩香はギョッとして振り向いた。
 きっと医療器具なんだろうが、まるでベッドのようにそこに寝ていたのは。
 きっちりと耳たぶあたりで切り揃えた黒髪に、赤い縁どりの眼鏡をかけて。
 白衣は着ているが、医療器具で寝ていた為か、シワシワになっている。


「人が気持ち良く昼寝してるってのにぃ」


 喋り方も幼い。
 だが、明らかに彩香よりも大分年上だ。
 水島先生と呼ばれたこの女が、風間の言う変わった医者なのだろう。
 彩香にはその意味が、すぐに分かった。
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