TRIGGER!
「あれ? 私、ここで寝てたのよね? 違うかなぁ・・・何で? 眠かったのかなぁ?」


 水島と呼ばれた医者は医療器具に座ったまま、腕組みをして必死で考え込んでいる。


「ここでしたか、先生」


 風間が戻って来る。
 水島は腕組みをしたまま、風間に気付いた様子で。


「あぁ、あんたね。あんた・・・えぇと、名前、何だっけ?」
「風間です。あのですね、ジョージが撃たれたので治療を」
「撃たれた!?」


 水島はビックリしたように、風間の方へ身を乗り出した。


「誰が撃たれたの!?」
「ジョージです。そこにいます」


 風間はそう言って、こっちを指さした。
 水島は慌てて医療器具から降り、パタパタとこっちに走って来る。
 気付いたのだが、スリッパを履いている。
 この眼鏡女、スリッパを履いたまま医療器具の中で昼寝をしていたのか。
 彩香は目の前に水島が立つと、ジョージからそっと手を離して、一歩引いた。


「あっ彩香、テメェ俺を見捨てたな!!」


 ジョージが彩香を睨む。
 間違っても、この変な女に関わりたくない。


「あージョージ。あんたねぇ、また撃たれちゃってるのぉ?」


 脇腹を抑えながら立っているジョージを指さして、水島はケラケラと笑う。
 確かジョージは撃たれてるんだよな、と、彩香は遠巻きにそんな水島を見つめて。
 すると、そんな彩香に気付いたらしい。


「あらぁ? 久しぶり・・・じゃなかった、お初よね? えぇと・・・ノリコちゃんだっけ?」
「・・・・・・」


 何と答えていいのか分からない。
 いやむしろ、何も答えない方がいいのかも知れない。
 それでも水島は、笑って。


「やだぁ、何処撃たれたのー?」
「先生、そっちじゃありませんよ。ジョージです」


 見かねたように、風間が言って。
 あぁそう、と、水島はジョージに向き直る。
 最早ジョージは気を失う寸前だ。
 痛みからなのか、絶望からなのか。


「じゃ、こっち来てよ。えぇとぉ・・・何処にしようかなぁ・・・」


 立ち並ぶ医療器具を見回して、水島は悩んでいる。
 ようやく決まったのは、彩香も知っている形の椅子だ。
 歯医者にある。
 ちゃんと、口をゆすぐコップまで付いている。
 風間はドン引きしているジョージを半ば無理矢理、そこへ寝かせ。
 もう、何かを言う気力も、ジョージにはないらしい。
 まな板の上のナントカ。
 そんな言葉を、彩香は思い出した。
 そして、心の中で合掌する。
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