TRIGGER!
 人の記憶を消せる薬なんて、もし裏ルートで市場に売り出したら、絶対に儲かるだろうに。


「あなたも怪我したら、いつでもおいでなさいね。頭が粉々にならない限り、ちゃあんと直してあげるから♪」
「やなこった」
「あら、ヤダ!」


 水島はいきなり大声を出す。
 そして自分の両手を見つめて。


「何で手がこんなに赤いの!? また私、何かしたかしら!」


 もう、ツッコミすら入れたくない。
 つか、早くここから逃げ出したい衝動に、彩香が駆られた時。


「じゃあ私はこれで。ジョージは宜しくお願いします」
「え? ってちょっと待てぇ!!」


 彩香は風間のスーツの裾をむんずと掴む。
 気を失ったジョージと、あの訳の分からん女だけで同じ空間にいるのはごめんだ。
 だが風間は振り返り。


「社長に報告しなければなりませんので。ジョージなら麻酔が醒めれば動けるでしょう。それまで、傍にいてやって下さい」
「やだよ。一人で帰れるなら勝手に帰ればいいだろ! あたしも部屋に戻る!」
「彩香さん」


 真剣な顔で、風間は彩香を見つめる。


「言いましたよね。水島先生は、忘れっぽいんです」
「あぁ、言ったな」
「ジョージと先生を二人きりにしておくと、先生が治療をした事を忘れてまたジョージに治療を施してしまうかも知れません」
「・・・・・・」
「そうならないように、見張ってて下さい。会話はしなくて結構ですから」
「じゃ、テメェが見張ればいいだろ!」
「私は社長に報告に行きますので」


 それだけ言い捨てると、風間は足早にエレベーターに乗って行った。
 絶対に逃げたんだと、彩香は思う。
 仕方なく彩香は、壁に寄り掛かり腕組みをして、イライラと新しいタバコを取り出して。
 改めて室内を見渡す。
 六階ワンフロアの広いスペース。
 ここに住んでいるという割には、生活の匂いはまるでしない。
 右側の、ベランダとは逆の場所に仕切られた部屋のようなものがあり、そこが多分、風呂やトイレ、キッチンなどのスペースなのだろうが。
 この怪しい医者は、絶対にベッドでは寝ないような気がしてならない。
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