TRIGGER!
 それからは、峯口は彩香を親戚の娘だとして自分の経営する会社“峯口建設”で働かせ。
 もうこうなったら半ばヤケクソで、峯口は彩香の戸籍を作り、繁華街の一角にある自らの所有する小さなマンションに住ませ。
 それでも心配だからと、秘書の風間に、彩香の動向を逐一報告させていたのだが。


「曲がりなりにも俺はな、お前みたいなヤツの親代わりを買って出た奇特な人間なんだ、そんなツレナイ態度取るなよ」


 言いながら、峯口は彩香の頬に手を添えた。
 だが彩香は、その手をバシッと叩いて。


「気持ちわりぃんだよ、誰も頼んでねぇよオッサン」
「お前なぁ」


 はぁぁ、と、深いため息。
 どうやらこの娘は、根本的な部分から性根を叩き直さなくてはならないらしい。
 それも、この街テイストで、徹底的に。
 この街は、何処にも行き場のない荒くれ者が最後に行き着く街。
 そして。
 彩香のような人間を、喉から手が出る程に欲しているのだ。
 自分の“見る目”は、節穴ではない。
 最初に出会った時から、峯口は決めていた。
 彩香が何処でどんな人生を送ってきたかなんて、峯口には一切関係ない。


「ま、俺はお前に投資するのを惜しまねぇと決めたんだ、多少の我が儘は片目をつぶってやるがな」


 峯口は彩香が口にしていたタバコを取り上げる。
 よくよく聞けば彩香は見ようによっては幼く見えるが、もう23で、タバコは問題ないのだが。


「ひとつだけ、俺のお願い聞いてくれるか?」


 峯口は取り上げたタバコをくわえながら言った。


「は? 何だよそれ」


 彩香は足を組み、新しいタバコを取り出しながら聞いた。


「お前が働いてた建築現場はな、明日から人員総入れ替えになっちまったしな。新しい連中といきなり仕事ってのも、色々と気ぃ使うだろ?」


 まぁそうだな、と、彩香はライターを弄んで。
 だろ、と、峯口は言った。


「だからな、新しい仕事をしてもらおうと思ってな」
「新しい仕事?」
「あぁ。もう一度言うがな、俺はただのボランティアでお前の面倒見てるんじゃねえ。こう見えてもここらじゃ敏腕経営者で通ってるんでな。見返りの見込めない投資はしねぇ」
「何でもいいよ。うざいから」


 アクビを噛み殺し、彩香は早く飲みに行きてぇんだから用件言えよ、と峯口を急かす。
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