TRIGGER!
 大型の医療器具の他に、左の奥には、数々のパソコンのモニターらしきもの、その隣にずらりと並ぶ棚。
 中には理科の実験に使うようなシャーレやビーカーが沢山並んでいて。
 今は、水島はその机の前で、真剣にパソコンを操作している。
 そのまましばらく黙って見ていると、水島はうーんと椅子の背もたれに寄り掛かり、仰け反った。
 そんな水島と、目が合ってしまう。
 ヤバい、と、慌てて彩香は目を逸らしたのだが。


「あらぁ?」


 ・・・気付かれた。
 水島はニコニコしながら、こっちに近付いて来る。


「こんにちは、えぇとぉ」
「彩香だ」


 彩香は水島よりも先に答える。


「あぁ、何してるの?」
「ジョージの目が覚めるのを待ってるんだよ」
「ジョージ?」


 首を傾げて考え込んでいる水島に、彩香は冷静になれ、と自分に言い聞かせる。
 じゃないと、本気で殴ってしまいそうだ。


「あんたこそ、何してたんだ?」


 質問を変えてみる。
 水島ははたと動きを止めた。
 まさか3歩、歩いたから忘れたとか言うんじゃないだろうな。
 そうきたら今度こそぶん殴ってやる、と彩香は腕組みをしたまま、水島を見つめる。
 すると、水島はメガネを少し持ち上げた。


「何してたか? それはねぇ」


 つかつかと向こう側に歩いて行ったかと思うと、水島はよっこらしょ、と大きなレンチを持って、こっちに戻って来る。
 か細くていかにも力のなさそうな水島には、扱うのも重そうなくらい大きなレンチだ。
 何をするのかと、彩香はキョトンとしながら水島を見つめていると。


「せぇ~のっ!!」


 水島は、レンチを振り上げた。
 そして、彩香に向かって振り下ろす。


「わっ!」


 まさかそう来るとは思わずに、ギリギリで彩香は水島が振り下ろしたレンチを避けた。


「何すんだテメェぇぇっ!!」


 叫んた拍子に、タバコが床に落ちる。
 そんな事には全く無関心で、水島は残念そうにレンチをそこら辺に立て掛けた。
 いたたた、とか言いながら、赤くなった手の平にふうっと息を吹きかけて、彩香を見つめて。


「だって、何をしてるかって聞いたじゃない」
「何してるかって聞いただけだよ!」


 言い返しながらも、あぁダメだ、と彩香は心の中で呟く。
 こんな奴とまともに付き合っていると、こっちまで頭がおかしくなる。
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