TRIGGER!
「ジョージが悪いんですよ」


 何時間か経った頃、不意に風間が言った。
 どれだけ飲んでも何故か酔いが回って来ない彩香は、風間の方を見る。
 何となく目が据わっているような気がするのだが・・・気のせいだと思い込む彩香。


「何がだよ?」
「今回のミッション、失敗でした。社長にあれほど慎重にと言われていたのに」
「だからそれは俺が悪かったって、謝っただろ!」


 ドン、とグラスをカウンターに叩き付けて、ジョージは言った。


「謝って済むのなら、警察は要らないんだよ」
「しつけェぞ隼人。オヤジはまぁ仕方ねぇって言ってたじゃねえか」


 いきなりこんな言い合いをされても、彩香には何のことかさっぱり分からない。


「分かりませんか、彩香さん?」


 風間が言った。


「説明してくれるのか?」
「社長には許可を得ています。だからいつでも説明は出来たんですが・・・」


 今回の一連の件について、彩香はまだ何も説明を受けてはいない。
 彩香は、風間がそうまでして言いたくない事件か何かに、知らぬ間に首を突っ込んでいたのだろうか。
 だが、風間は苦笑する。


「何となく面倒だったんですよ。説明しても彩香さん、理解してくれるかどうかも疑問だったので」
「はぁぁ!?」


 思わずカウンターに突っ伏しそうになりながら、彩香は風間を睨む。
 ただ単に説明するのが面倒だったから、今まで何も言わなかったのか。
 文句のひとつも言ってやろうと思い、彩香は口を聞きかけた。
 だが風間は不意に、真顔に戻る。


「彩香さんは黙って俺について来てくれればいい、そう思ってましたし」


 ウイスキーのグラスを傾けながら、風間は言った。
 どういう意味なんだ、と彩香が思っていると、いきなり後ろから肩を抱かれた。


「黙って付いて来いとか、ふた昔前の日本男児じゃあるまいしなぁ、彩香!」
「なっ・・・ジョージ!?」


 麻酔がまだ残っているのか、今日のジョージも酒が回るのが早いらしい。
 だんだんとお客も増えていき、後ろのボックス席が騒がしくなってきた。
 オカマちゃん3人トリオだけでは手が足りないのか、今は桜子もカウンターを出て、ボックス席で接客をしている。
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