TRIGGER!
「ジョージを撃って囮にしたのは柴崎の指示で間違いありません。ですが」


 風間は、ウイスキーを一口飲んだ。


「それだけじゃなかったんですよ」
「どういう意味だ?」
「柴崎は我々との協定を打破し、自らがこの街を仕切りたいと考えています。だが資金面では到底、我が峯口建設には及びません」


 そこまで聞いて、彩香の頭の中で少しだけ、何かが繋がる。
 その困難な資金面をどうにかすると言うことは、柴崎が金儲けの為に選んだ手段・・・あっちの世界での武器の売買をすると言う事だ。
 そこで絡んでいるもう一つのカードが。


「政治家が武器の裏取引を手助けしてんのか」
「その通りです。そこでジョージが、証拠を掴む為に今回のミッションに挑んだんですが」


 風間はちらりと、ジョージを見つめる。
 ジョージは知らん顔で、ウイスキーを飲んでいた。


「その政治家が誰なのかを突き止めたまでは良かったんですが・・・深追いし過ぎて、このザマです」
「なるほど。で、これからどうすんだ?」


 彩香は聞いた。
 協定を破ったのは柴崎だ。
 向こうから売られた喧嘩なら、買うしかないだろう。
 そう言う仕事は大好きだ。
 だから彩香はてっきり、ゴーサインが出ると思っていたのだが。


「このことを報告したら、社長は一旦この件から“手を引く”と仰いました」
「手を引く?」


 彩香は聞き返す。
 そうです、と風間は頷いて。


「相手の名前が分かった以上、迂闊に手出しは出来ません」
「何でだよ、政治家っつってもタダのオッサンだろうが」
「タダのオッサンではありませんよ。武器はそのオッサン自らが、海外より極秘に仕入れています。ただ、表の流通ルートには乗せられない。だから柴崎と組んだ」


 夕方会ったあの怪しい女は、ドアには二種類あり、彩香のマンションのように常に固定されているドアと、そうでないものがあると言っていた。
 柴崎はその固定されているドアの場所を知っている。
 武器を流通させて儲けたい政治家と、安全で確実なルートを持っている柴崎。
 どちらも大儲けが出来る。
 だが納得いかないのは。


「なぁんでそこまで分かってんのに、手ェ出せねぇんだよ」
「さっきも言った筈です、相手はタダのオッサンじゃないと」
「こっちが下手に手ェ出しゃ、ひとひねりで会社が潰されるってこった」


 今まで黙っていたジョージが、風間の言葉を補足する。
 相手はそれ程までに、力を持っているのか。
 まぁ確かに、この国で違法な行為をここまで平気でするなんて、普通の人間ではないのは分かるが。
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