TRIGGER!
 だがどうしても、納得いかない。
 要は、あの柴崎とか言うデブをギャフンと言わせて、ドアのありかの一つでも吐かせりゃいい話じゃないのか。
 政治家と柴崎の取り引き条件は一旦中座している筈だ。
 最初の交渉で上手く行かなかったから、政治家の手によってアリスが犠牲になったのだ。
 そのアリスの死からは、まだそんなに時間は経っていない筈だ。
 柴崎にとって“ドア”の場所は、最後の切り札。
 ならば、いくら交渉が成立したとはいえ、そう簡単に場所を教える筈がない。


「ところで彩香さん」


 こっちに向き直り、風間は言った。


「柴崎には個人的な恨みか何か、あるんですか?」


 彩香が峯口に出会った日。
 あの日も柴崎は、クラブ『AYA』で飲んでいた。
 商売敵とも言える峯口の店に足繁く通うのは、お気に入りのホステスがいるからだ。
 柴崎は、そのホステスのアズサちゃんを、クラブ『パシフィック』に引き抜こうと必死になっているらしい。
 彼女は断り続けているが。
 彩香にはそんな因縁は、全く関係ない筈だ。
 そこがどうしても、風間には分からなかった。


「彩香さんが社長と最初に出会ったあの日、そして雛子さんを紹介された日も、柴崎に喰ってかかったそうですね」
「・・・・・・」


 彩香はカウンターに頬杖をつきながら、ウイスキーを飲んでいる。


「それ、俺も聞きたいんだよなぁ」


 ジョージも話に乗ってきた。
 ついでに桜子も、こっちに聞き耳を立てている。
 彩香はグラスを置くと、はぁぁっとため息をついた。


「あの日・・・」


 うんうん、と、一同は彩香に注目する。


「道歩いてたらさぁ、柴崎とたまたますれ違ったんだよ」
「それで?」


 ジョージが先を促した。


「したらあのデブ、すれ違いざまにあたしの胸、触りやがった」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・それだけか?」


 長い沈黙の後、ジョージが聞き返す。
 彩香は大きく頷いて。


「それだけだ」


 ・・・また、長い沈黙。


「・・・ぷっ」


 耐え切れずに、桜子が吹き出す。
 つられたのか、ジョージと風間も笑い出して。


「やだ彩香ちゃん、胸触られたくらいで、陽介ちゃんの店、全壊にしちゃったのぉ!?」
「悪いかよ!」
「いっ・・・いや彩香さん、正しいですよ。セクハラ行為を許してはいけません」
「つか隼人、そう言うのは笑いながら言うセリフじゃねぇな」
「ぶわっはっは! オヤジも大変なの拾ったよなぁ!」
「ジョージ、テメェ・・・!」


 大笑いの渦の中、彩香はふと、気付く。


「オヤジとか言ったか?」


 しまった、という風に、ジョージは口を押さえる。
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