TRIGGER!
「あら、知らなかったの? ジョージは陽介ちゃんの息子よ、生物学上のね」


 今度は彩香が沈黙する番だ。

 
「おい、そんな言い方したら、俺がまるで動物みてぇじゃねぇか」
「お前は充分野生児だよ」
「何だとぉ隼人!!」
「やめなさいよ二人とも。彩香ちゃん、まだ固まってるわよ」


 また掴み合いを始めそうになった二人を、桜子がたしなめる。


「だってジョージ・・・確か浜崎って・・・」
「あぁ、母方の姓を名乗ってるんだよ。ついでに言っておくが、俺はあのオヤジとはウマが合わねぇ」


 そう言えば、峯口とジョージは何処と無く似ている。
 喋り方も、仕草も。
 特に彩香をからかう時なんて、そっくりだ。
 似ているから、ウマが合わないのか。
 それにしても、驚いた。


「我が峯口建設の跡取りがこんなじゃな」
「お前にやるよ、隼人」


 あっけらかんとそんな会話を交わすジョージと風間。


「まぁ、色々あるよねぇ」


 しみじみと呟いて、彩香はグラスに残ったウイスキーを飲み干した。


「じゃ、あたしはそろそろ帰るよ。当分は仕事、ないんだろ?」
「まぁ、クライアントはまだまだ居ますから・・・子供のお使い程度の仕事なら、近いうちにあると思いますが」


 そうか、と彩香は頷いて立ち上がる。


「ま、寂しかったらいつでも俺が添い寝してやるよ」


 そう言ったジョージを、風間が睨む。
 だがすぐに、彩香の方に向き直り。


「あぁそうだ、彩香さん」
「なに?」
「明日から私も、あのマンションの502号室に引っ越す事になりましたので。これからよろしくお願いします」
「はぁぁぁ!? 俺は聞いてねぇぞ! しかも俺達の真ん中の部屋・・・!」
「言う必要もないと思ったから言わなかったんだよ。仕事上都合がいいしな」
「職権乱用だろうが!」
「どう捉えようが、お前の自由だ」


 ぎゃあぎゃあと言い合いをしている二人を尻目に、彩香は軽く桜子に手を上げる。


「じゃあな、また来る」
「お休みなさい。良かったわねぇ、モテモテで」
「考えたくもねぇよ」


 深いため息を吐きながら、彩香は『BAR AGORA』を後にした。
< 83 / 92 >

この作品をシェア

pagetop