TRIGGER!
 彩香は息を吐き、武器代わりに使っていたスタンドライトを投げ捨てると店の奥に向かう。
 その時、ホステスの一人に声を掛けられた。


「あっ・・・あの」


 薄いピンク色のドレスが似合う、色の白い、大人しそうな女だ。


「ん?」
「しっ・・・知ってるの、アリスの事…?」


 今にも泣き出しそうな、可愛げのある女。
 だが、アリスはもう、何処にもいない。
 例えこのホステスがアリスと知り合いだろうとも、居なくなった女には、用事はない。
 ただ、タバコ一本の礼を果たすのは、悪い事ではない。
 彩香はホステスに向かって、ニヤリと笑う。


「知らねぇよ。あんなバカ女」


 そう言い捨てて、彩香は歩き出す。



☆  ☆  ☆



 クラブっていうのは、何処もかしこも同じような造りになっているらしい。
 一番奥のVIPルームのソファのど真ん中には、見たくもない顔のデブが、どっかりと座っていた。
 デブの両脇には、ホステスが二人、座っている。
 壁際にはガードが三人。
 その後ろには、避難用のドアがある。


「よく逃げなかったなぁ!」


 感心したように、彩香は言った。
 柴崎はヘラヘラと笑う。


「いやいや今夜は退屈な夜でな。お嬢さんのようなお祭り騒ぎが大好きな人間でも遊びに来ないかと思ってた所だよ」
「そりゃどうも」
「まぁ座りなさい。極上のシャンパンを用意させよう」


 促されて、彩香は柴崎の向かい側に座る。
 ホステスが、グラスにシャンパンを注いだ。
 滅多にお目にかかれないような、何十万もする高級品だ。
 彩香はちらりと、女に視線を送る。
 プラチナのネックレスが揺れていた。
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