TRIGGER!
「かっ・・・かか、帰っただとぉ!? 一体どうやって・・・!」
「簡単な事です。我が峯口建設は今非常に人手不足でしてね。なのでこちらの労働条件よりもいい案を提示しただけですよ。いわゆる“引き抜き”ですね」


 にこやかに言う風間を、柴崎は奥歯を噛み締めながら睨む。


「ま、柴崎組は今夜で終わりなんだからな、当然の成り行きだ。それにお前もやってただろ、ウチのアズサちゃんによ」


 ジョージが、ガハハと笑う。


「彼女言ってたぜ? あんなキモイ男の所で働きたくない、ってな」
「そっ・・・そんな・・・アズサちゃん・・・」


 世界で一番アナタが好きよって言ってくれたのにぃ、と、柴崎はガックリと項垂れて。


「ま、あたしにゃそんなのどうでもいい話だがな」


 彩香は床にへたりこんだ柴崎の背後に立ち、無表情でその背中を見下ろす。
 そして、VIPルームの非常口を顎で示して。


「“ドア”はあっちで間違いないんだな?」


 空手の男は、こくりと頷いた。
 峯口のマンションの四階に住む、見分けが付かない人間が言うんだから、間違いない。
 そっか、と、彩香は笑う。



☆  ☆  ☆



「こっ・・・こんな事して、タダで済むと思うなよ?」


 クラブ『パシフィック』の裏口。
 VIPルームの非常口から出た所にある電信柱に、柴崎は縛り付けられていた。
 もうそろそろ、夜が明ける。
 店の裏道を通るのは、今日も一日繁華街で働いたホストやホステス達だ。
 だがその連中は、こっちには目もくれずに足早に歩いて行く。
 それもその筈、たった今、あっちの世界に繋がるVIPルームの非常口を通って来たからだ。
 こっちの姿は、現実世界にはない。


「明日の朝一番で、峯口建設がクラブ『パシフィック』の建物を取り壊す手筈になっていますので」


 風間が言った。


「オッサンが助かる道はいくつかあるぞぉ。店が取り壊される前に、何とか縄抜けをしてドアからこっちの世界に戻る」
「あたし、かーなーりキツく縛っちゃったからなぁ。あと三時間後くらいには取り壊し始めるんだろ?」
「いやいや彩香、俺達も鬼じゃねぇ。もし、取り壊すまでに縄抜けが間に合わなかったとしてもだ、自由になったら自分で“ドア”を探せばいい」
「でもさぁ、ジョージ。たしかここって、一週間で廃人になるんだよな? 間に合うかなー、ドアって、結構あるよ?」


 彩香とジョージの会話を聞いて、柴崎の顔がどんどん青ざめていく。
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