真夜中プリズム
走っていたのはさゆきだった。ゴールラインで高良先生がストップウォッチを構えている。
これは、なかなかいいタイムだろうな。さゆきがゴールに飛び込むのを見てそう思った。あたしが知っている中学の頃よりもずっとずっと速くなっている。フォームも綺麗だ。たぶん意識して矯正したんだろう。それだけでタイムはかなり縮まっていると思う。
でも、走り方は何ひとつ変わっていない。小柄な体がとても大きく見えるような、荒々しくて豪快な走り。
風を、空気を裂くような。その走り方で、さゆきはいつもあたしの後ろを追いかけた。
「……昴センパイっ!!」
その声で我に返ると、こっちに向かって手を振るさゆきが目の前にいた。
やばい、見つかっちゃった。ここで話をする気なんてなかったのに。
「昴センパイ! もしかして練習見に来てくれたんですか!?」
さゆきは、あたしのところまで来ると嬉しそうにはしゃぎながらそう言った。
細い肩の向こうには呆れた顔でこっちを見ている高良先生がいる。それからその向こうには、陸上部の、他の部員の姿も。
急に心臓が走り出して慌てて目を逸らした。さゆきは変わらず満面の笑みで、あたしのことを見上げている。
「センパイ、あたしの走り見ててください! この頃またタイムが伸びてて、この調子ならインハイでの上位入賞は確実だって」
「あの、ごめんねさゆき、あたしこれから部活があってさ」
「部活? うそ、昴センパイ部活はじめたんですか? 陸上部じゃなくて? 何部なんですか」
「えっと……」