真夜中プリズム
真夏くんがぎゅっとあたしの手を握る。そしてそのままずんずんと、丘の上へ続くがたがたの階段をのぼっていく。
「今日は暑いね」
「うん……て、真夏くん、どこ行くの?」
「すぐそこだよ」
学校の裏の丘は一面が芝生だ。
この辺りの地域はこういった丘がいくつかあって、もっと向こう側に行けばオシャレな住宅街になっているところもあるけれど、ここは本当に何もなくて、ただただ雑草も生える芝が広がるばかり。
景色がそんなにいいわけでもないから来る人もほとんどいないだろう。実際あたしも、のぼったことは初めてだ。
じりじり焼けた真夏の太陽が直接当たる場所だった。
手を引かれてのぼりながら空を見上げてみる。真っ青で、雲なんてひとつもない空。そこで光る近い太陽がどうしようもなく眩しくて、あたしは思わず目を細めた。
丘の、一番てっぺんまで来て、真夏くんはあたしの手を離した。
そこはやっぱりなんにもなくて、ただ他の場所よりも少し気持ちのいい風が吹いてるような気がするところだった。
真夏くんがちょこんと芝生の上に座るから、あたしもその隣に座る。「またハンカチ忘れちゃった」って真夏くんが言うのを、「いらないよ」ってあたしは笑った。
「ここね、こんなにいいところなのに何にもないからって開発の話が出てるんだって。もったいないよね、何もないからいいのに。おれここ大好きなんだ」
「そうだね。あたし学校の裏の丘初めて来た」
「おれは学校の裏山って呼んでるよ」
「それってあれみたいだね。ノビタクン」
「ノビタクン」
ロボットみたいにあたしの言葉を繰り返す。真夏くんは、草の匂いを嗅ぐみたいに静かに息を吸って、そのままこてんと芝生の上に寝ころんだ。