真夜中プリズム

あたしも真似してみる。

草の匂いがツンとして、空の青さが目に染みる。


「真夏くん、なんでここに来たの?」

「昴センパイが辛そうな顔してたから」


真夏くんのほうを見た。真夏くんは、真っ直ぐ空を見上げたまんま。

……ああ、もしかして、さっきのさゆきとのやつ見られてたのかな。

真夏くん、わざと、集合場所変えるメール、くれたりしたのかな。


「おれもね、苦しいときにひとりでここに来てたんだ。ここ、誰も来ないからすごく楽なんだよね。ほんとはね、夜がおすすめなんだよ。星がいっぱいで全部見えるから。いろいろ考えすぎて、泣きそうになってもね、ここに来ると大丈夫になる」


真夏くんがゆっくり空に手を伸ばした。まだ、あんなにも高い位置に太陽があるから、星なんてどこにも見えないのに、真夏くんの手のひらはいつだって、小さな光を掴もうとするみたいに遠くの空に優しく触れる。


「真夏くんも、くるしいときとか嫌なときとか、あるの?」


訊くと、真夏くんはくすぐったげにふわりと笑った。


「ないよ。今はもう、ない」


綺麗な顔だった。つくりとかじゃなくてね。

混じり気ない表情で笑うんだ。真夏くんて、いつもそう。


「…………」


真似して、あたしも太陽に向かって手を伸ばしてみる。

ぎゅっと開いた隙間から、漏れる真っ直ぐな光。
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