真夜中プリズム
「まって」
どうしてか、ほんとにどうしてかあたしを呼び止めるその一言。
立ち止まって、ぎこちなく振り返れば、綺麗なお顔が数歩離れた距離の場所からあたしのことを見ていた。
「もうすぐ日が暮れるから、ここにいたら?」
何それ。ふつう「もうすぐ日が暮れるから早く帰れば?」じゃないの。
日が暮れるからってなんでここにいなきゃいけないんだろう。
てか、いちいち呼び止めたりとか。なんだかわけがわかんない。
あたしのことなんて、ほっとけばいいのに。
「それともなんか、これから用事あった?」
「え、いや……ない、けど」
あ、しまった。あるって言ったらスムーズに帰れたかな。
咄嗟の答えに宮野真夏が、また「ふうん」と呟く。
「じゃあここにいなよ。いいもの見られるよ」
いいもの?
なんですかそれって訊こうとしても、もう彼の視線はあたしのほうにはない。
どうしようと迷いながらも、さすがにここで帰る勇気はちょっとなかった。
諦めて、同じ屋上の、少し距離を空けた場所に立つ。どこかを向いたままの整った横顔。真夏のような濃い青の空に、その綺麗な姿は見惚れるほど映える。